契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
和樹の脳裏にアフタヌーンティーのケーキを美味しそうに食べていた楓の姿が浮かんだ。
おそらくは奨学金返済のための節約生活で、あまり頻繁には食べられないのだろう。和樹の分も食べていいと言うと、恥ずかしそうに一旦は首を振り、でも結局は嬉しそうに食べていた。
一瞬の沈黙ののち、和樹は口を開いた。
「今日は直帰する。自宅まで送ってくれ」
黒柳が目を見開いた。
「珍しいですね」
無理もない、和樹が本社勤務になってからは、はじめてのことだった。
「ご自宅で奥さまとご夕食ですか?」
「ああ。もちろん、妻の方が残業にならなければの話だが」
答えると、黒柳が疑わしいというように、わずかに目を細める。でもすぐににっこりと微笑んだ。
「かしこまりました。ではそのように手配いたします。また出発時間になりましたら、呼びに参ります」
そう言って和樹を追い越し部屋を出て行った。
ドアが完全に閉まったのを確認して、和樹は近くの応接スペースに腰を下ろし、ため息をついた。
彼女と顔を合わせてしまうかと思うと、すぐに出ていく気にはなれなかった。
こんなやり取りは和樹にとってはよくあること。
べつにどうというわけでもないはずだ。彼女が特別、不快な振る舞いをしたというわけでもない。
今まで和樹が接してきた女性たちは、皆あのようなものだった。
好意を抱かれているはずなのに、腹の探り合いのような駆け引きをする。
そんなことは朝飯前のはずなのに。
今は言いようのない不快感を覚えている。
——また、あの買い物の日の出来事が頭に浮かんだ。
あの日は、お互いによく知らない女性と一日中過ごしたはずなのに今のような苛立ちや不快感はまったく感じなかった。
それどころか、普段は一ノ瀬以外の誰にも見せていない自然体の自分でいたようにも思える。
それは楓が自分に好意を抱かないと安心できる相手だからか。
あるいは……。
黒いソファに肘をついて和樹は考え続けていた。
おそらくは奨学金返済のための節約生活で、あまり頻繁には食べられないのだろう。和樹の分も食べていいと言うと、恥ずかしそうに一旦は首を振り、でも結局は嬉しそうに食べていた。
一瞬の沈黙ののち、和樹は口を開いた。
「今日は直帰する。自宅まで送ってくれ」
黒柳が目を見開いた。
「珍しいですね」
無理もない、和樹が本社勤務になってからは、はじめてのことだった。
「ご自宅で奥さまとご夕食ですか?」
「ああ。もちろん、妻の方が残業にならなければの話だが」
答えると、黒柳が疑わしいというように、わずかに目を細める。でもすぐににっこりと微笑んだ。
「かしこまりました。ではそのように手配いたします。また出発時間になりましたら、呼びに参ります」
そう言って和樹を追い越し部屋を出て行った。
ドアが完全に閉まったのを確認して、和樹は近くの応接スペースに腰を下ろし、ため息をついた。
彼女と顔を合わせてしまうかと思うと、すぐに出ていく気にはなれなかった。
こんなやり取りは和樹にとってはよくあること。
べつにどうというわけでもないはずだ。彼女が特別、不快な振る舞いをしたというわけでもない。
今まで和樹が接してきた女性たちは、皆あのようなものだった。
好意を抱かれているはずなのに、腹の探り合いのような駆け引きをする。
そんなことは朝飯前のはずなのに。
今は言いようのない不快感を覚えている。
——また、あの買い物の日の出来事が頭に浮かんだ。
あの日は、お互いによく知らない女性と一日中過ごしたはずなのに今のような苛立ちや不快感はまったく感じなかった。
それどころか、普段は一ノ瀬以外の誰にも見せていない自然体の自分でいたようにも思える。
それは楓が自分に好意を抱かないと安心できる相手だからか。
あるいは……。
黒いソファに肘をついて和樹は考え続けていた。