契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
——だが。
どうしてか今は、そういう気分になれなかった。
彼女から感じる強い花のような甘い香り。本当なら魅力的なはずの香りが不快だった。
和樹は意識して口元に笑みを浮かべた。
「ありがとう、気がきく部下を持って私は幸せだ。だけどそれはまたの機会にするよ。午前中に済ませておきたいことがあるから出発時間を早めるわけにはいかない」
労いの言葉を忘れずに、注意深く言葉を選んで断ると彼女は残念そうに目を伏せた。
「そうですか……」
「用はそれだけ? ならお先に」
確認して和樹は歩き出そうとする。すぐにでも部屋を出たかった。
このようなことは和樹にとってはしょっちゅうでどうという話でもないはずなのに、なぜか今は苛立っている。
『私にこういう経験がないのは、副社長もご存知でしょう?』
そう言って頬を膨らませていた楓の姿が頭にチラついた。
部屋を出ようとドアノブに手をかける。そこでまた呼び止められる。
「お待ちください副社長。今日のお帰り先の確認もさせてください」
そう言って彼女は、探るような目で和樹を見た。和樹は一旦ドアから離れ今日のスケジュールを思い浮かべた。
今日は月に一度の"夫婦の日"。
つまりいつもより早く業務を切り上げ、妻と食事を囲むフリをする日だった。
こういう日は、たいていどこか適当なホテルへ送ってもらう。
そこで楓と待ち合わせて、その中のレストランで食事をするということにするのだ。
もちろん実際にはひとりだから、そこで食事をするかあるいはBARで時間をつぶすか、場合によっては部屋を取り仕事をしてからタクシーで帰宅する。
真っ直ぐに家へ帰らないのは、楓と鉢合わせするのをなるべく避けるためだった。
彼女と顔を合わせたくなかったわけではない。ただ、互いに顔を合わせない方が気楽だからだ。
今だって、仮面夫婦であることは変わりない。だからいつものように適当なホテル名を告げるべきなのだ。
そうするべきなのだが……。
どうしてか今は、そういう気分になれなかった。
彼女から感じる強い花のような甘い香り。本当なら魅力的なはずの香りが不快だった。
和樹は意識して口元に笑みを浮かべた。
「ありがとう、気がきく部下を持って私は幸せだ。だけどそれはまたの機会にするよ。午前中に済ませておきたいことがあるから出発時間を早めるわけにはいかない」
労いの言葉を忘れずに、注意深く言葉を選んで断ると彼女は残念そうに目を伏せた。
「そうですか……」
「用はそれだけ? ならお先に」
確認して和樹は歩き出そうとする。すぐにでも部屋を出たかった。
このようなことは和樹にとってはしょっちゅうでどうという話でもないはずなのに、なぜか今は苛立っている。
『私にこういう経験がないのは、副社長もご存知でしょう?』
そう言って頬を膨らませていた楓の姿が頭にチラついた。
部屋を出ようとドアノブに手をかける。そこでまた呼び止められる。
「お待ちください副社長。今日のお帰り先の確認もさせてください」
そう言って彼女は、探るような目で和樹を見た。和樹は一旦ドアから離れ今日のスケジュールを思い浮かべた。
今日は月に一度の"夫婦の日"。
つまりいつもより早く業務を切り上げ、妻と食事を囲むフリをする日だった。
こういう日は、たいていどこか適当なホテルへ送ってもらう。
そこで楓と待ち合わせて、その中のレストランで食事をするということにするのだ。
もちろん実際にはひとりだから、そこで食事をするかあるいはBARで時間をつぶすか、場合によっては部屋を取り仕事をしてからタクシーで帰宅する。
真っ直ぐに家へ帰らないのは、楓と鉢合わせするのをなるべく避けるためだった。
彼女と顔を合わせたくなかったわけではない。ただ、互いに顔を合わせない方が気楽だからだ。
今だって、仮面夫婦であることは変わりない。だからいつものように適当なホテル名を告げるべきなのだ。
そうするべきなのだが……。