契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「ほら、あの人だよ。例の……全然違うでしょう?」

「本当だ! なにがあったの?」
 
ザワザワと社員が食事をする三葉商船の社員食堂で、亜美と向かい合わせになって昼食を取っていた楓は、そんな声が聞こえてきて箸を持つ手を止めた。
 
思わず振り返ると、話していたと思しき女性社員と目が合った。

彼女たちはハッとしたように口を閉じてこちらに背を向けて去っていった。
 
亜美が首を傾げた。

「楓さん? またなにか言われてたんですね。大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」
 
楓はそう言って、日替り定食の鯖の味噌煮を食べはじめる。

が、それは嘘だった。本当はなにを言われていたのか、彼女たちが楓についてどう思っていたのか、なにを言われていたのか、気になって仕方がなかった。

どこかそわそわしながら箸を進める楓に、オムライスを食べていた亜美が同情するように口を開いた。

「いつもいつも注目されてて、気の毒だなって思いますけど。今回は仕方がないですよ。楓さん本当に可愛くなりましたから。もし悪いことを言っている人がいるとしたら、それは全部嫉妬です」

「あ、亜美ちゃん……!」
 
大きな声でとんでもないことを言う亜美に、楓は慌てて指でしーっとする。そして周りを見回した。

"可愛い"なんて誰かに聞かれたらと思うと気が気じゃなかった。その楓の行動に亜美が意外だというような表情になった。

「珍しいですね、楓さんがそんな風に周りを気にするなんて」
 
その通りだった。
 
そもそもいつもの楓なら、なにか言われているなと思っても振り向くこともしない。水を飲み、心を落ち着けてから、楓は口を開いた。

「まぁ……。一応、今の私の評判は自分だけの問題じゃないっていうか……」
 
亜美がふふっと笑って納得した。

「まぁ、そうですよね。でも絶対悪い風には言われていませんから。安心してください」
 
和樹と食事をした日からちょうど一週間が経った。週明けから楓は和樹にそろえてもらった服を着て、メイクもおしえてもらった通りにして出勤している。
 
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