わたしは殺され、あなたを殺す
 部屋に運び込まれ、水を飲み、そうして父娘で話し合った結論は、セレニカは王族特有の〝聖なる力〟に目覚めたのだろうということ。
 母親も詳細は語らなかったと言うが、そもそもどういったものであるか本人たちも理解はしていないのかもしれない。それでも最期の日まで逃げおおせたのには少なからずその力の影響があったのではないかというのが父親の見解だった。

 王族にあらわれる〝聖なる力〟は、どうやらそういった――セレニカが起こした現象、服従や洗脳のような――作用を持つらしい。
 これまで発現しなかった能力とともに、瞳の色までもが幾分変化しているようだと、指摘されて驚いた。青紫だったものが、母親ものによく似た紫へと変わっていたのだ。父親が言うには彼の本性を知ったあの日すでに、顔を見ての違和感はあったと。

 もしかして、と頭をよぎったのは、あれ以来彼に対する気持ちが消えたこと。
 あまりの所業に愛想を尽かしたのだと思っていたけれど、抱いていた恋心さえそうと思い込まされていたのだとしたら。それを解かれたのか、いや、自分が解いたという可能性も高いのかもしれない。

 セレニカは跳ねる心臓を落ち着かせるよう、意識して深く呼吸を繰り返す。
 自分の体質が変わりつつあることには気づいていた。
 少しずつ、少しずつ、心も肉体も奥の奥から作り替えられていくような感覚。これこそが真の神の御業かもしれない。

 これが、この力が自在に扱えたなら。
 そうしてそれが神の思し召しならば。――わたしは。

 頭に浮かんだ思考に息を呑み、セレニカは強く自身を抱き締めた。




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