生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

26.治療院へ

 マーグリット領の仕事を終えた日、私はアレクが帰るなり、すぐに相談をした。

 アレクはすぐにルーカス様に話を通してくれ、明日には面会出来るようになった。

 ルーカス様もお忙しいけど、結界の修復が優先だと思ってくれているみたい。

 また無理してないかなあ?明日会えばわかるか!

 ルーカス様に会える嬉しさでウキウキしていると、トロワに生暖かい目で見られてしまった。

「で、今日はどうするんだ?」

 ルーカス様と明日、今後の計画を練り直すことになったので、今日はオフだ。

「行きたい所があるの」

 私は動きやすい服に着替えると、トロワを連れて家を出た。

 今日はアレクは仕事。ユーグにはお休みを取ってもらった。

 トロワもついているし、家にいるから大丈夫!と二人には言ってある。

 元々、このお屋敷には人が少ないので、私は簡単に家を抜け出せた。トロワも、「何かあれば俺がいるから」と言ってくれて、頼もしい。

 そうして向かった先は、王都の端っこにある治療院。ルーカス様とリヴィアが作った場所。

「あった……」

 乗り合い馬車を乗り継いで、辿り着いた場所には、石造りの変わらない治療院がそこに佇んでいた。

 まだ、あった。

 再会したばかりの時のルーカス様を考えると、もしかしたらもう無いかもしれない、と少し心配はしたものの、治療院は変わらずにそこにあった。

 私は嬉しくて涙が出そうになった。

「来たい所ってここかよ」
「そうよ。今、どうなっているかと思って」

 トロワもよく知っている場所に、懐かしそうな顔をしている。

 治療が必要な人のために、誰もが平等に治療を受けられるように、ルーカス様がこの治療院を建ててくれた。リヴィアはポーションを材料費だけで卸していたので、治療費も安い。

 賛同を得た貴族からの出資もあり、上手く回っていた。 

 そっと入口から中の様子を伺うと、中では急患が来たらしく、バタバタとしていた。

 何か手伝えることがないかと、入口から顔をのぞかせると、医師がこちらを見たので声をかけようとする。

「ルーカス様!」

 口を開こうとした瞬間、医師の言葉に私は目をパチクリとさせた。

 ルーカス様?

 よく見れば、医師の目線は私よりも遥か上。

 恐る恐る後ろを振り返れば、そこにはマントを被り、お忍び姿のルーカス様が立っていた。その後ろにはもちろん、アレクがいる。

 やば……と思い、口をパクパクさせていると、ルーカス様は目線を下にやり、私に気付いた。

「お前……」

 驚いた顔でこちらを見るルーカス様。続けて何か言おうとしたけど、それはアレクによって遮られてしまった。

「リリア!! 何でここに! しかも一人で?!」

 心配そうなアレクの顔に、申し訳なさを滲ませながら私は答えた。

「お父様、ごめんなさい。トロワがいるから大丈夫です。それより、緊急事態では?」

 驚きの顔で私を見下ろす二人の顔に、私は中に目をやった。

「何か困ったことでも?」

 ルーカス様は私の言葉に、すぐに切り替えて医師に問うた。流石だ。

「先日流行した病で、ポーションを使い切ってしまい、急患に対応出来ません…。今は薬湯で何とか応急処置をしておりますが……」
「ポーションが足りない?」

 私の疑問にルーカス様が答えてくれる。

「リヴィアの残したものはとっくに底をついている。ポーションは希少で高価だからな。リヴィアがいたときのようにはここに卸せないんだ」
「それを補うように、王宮の薬をルーカスは回しているけど、ポーションでしか治せないものもあるから…」

 どうやら、ルーカス様の回す薬で普段は治療院を回していて、重症の患者にだけポーションを使うようにしていたらしい。

 でも先日の流行り病で、今月分のポーションは底をついてしまったらしい。

 確かにポーションは高価だけど、支援してくれている貴族もいたはず……。

「支援金で何とかならないんですか?」

 私の言葉に、ルーカス様もアレクも何故か目を見開いて固まった。

「リヴィアが死んでから、多くの貴族が手を引いた。この治療院はギリギリで回っている」

 固まっていたルーカス様は、私の顔を見ると、フッと笑って言った。

 ギリギリの状態でもルーカス様はこの治療院を守ってくれていたのだろう。

 その事実に、私は胸が熱くなった。

「先生、患者さんの容態が……!」
「失礼します!」

 医師は中の人に呼ばれて、ルーカス様に礼をすると、慌てて戻って行った。

 予断を許さない状態らしいことが私にもわかった。

 私の治癒魔法では、応急処置しか出来ない。ポーションが必須だ。

「アレク、私が自由に出来る財産はまだあるな?」

 ルーカス様がアレクに聞くと、彼はため息をついて言った。

「王太子としてポーションを納めさせれば良いじゃないか」
「そんなことをしたら第二王子派の奴らの反感を買うだけだ。そんなことリヴィアは」
「望んでないって言うんだろ」

 アレクの言葉に、何度もあったやり取りだと感じ取る。

「すぐに手配する」

 そう言うとアレクはその場を離れた。

「さて、お前は何故ここに?」

 二人きりになった所で、ルーカス様は私に問い詰めるように聞いた。

 あ、やっぱり忘れてくれてないですよね?
< 26 / 52 >

この作品をシェア

pagetop