へクセ─────レネディール最後の魔女
そもそもの始まりは、遡ること今から5年前の4月。
新卒の19歳で入社してから間もなく職場で公開告白をされたことがあったのだが、仕事を覚えるのに手一杯で、相手の事など眼中にすらなかった私は告白を固辞した。
聞き耳を立てていた同僚や他部署の野次馬から猛烈なブーイングを受けたが、本当に余裕が無かったし、その相手にも興味がなかったのだから仕方がない。

しかし、それが切っ掛けで悪意を全面に推した噂が広がり、職場の同性からは“男に色目を使う阿婆擦(あばず)れ”と勝手に噂立てられ、簡単に噂を信じた中年の女上司までもが加担していびりだすようになった。
それから同僚…しかも同期と上司は業務に必要な連絡などを故意に怠り、来客中にも関わらず大声で侮辱&罵声を吐き散らすのは茶飯事で、誰もが見て見ぬふりである。
痛めつけた気になって満足したらしいバカ女どもが昼時を報せるチャイムと共に去っていく背中を見送るのが、毎日のルーティンだった。

(低脳クズどもが。お前らの会話はすべて、ボイスレコーダーに証拠として録音済みだからな…。やれやれ、コイツらの事は人の言葉を喋る虫くらいに思っとこう…)

女とは、本当に面倒臭くて恐ろしい生物である。
男、それもルックスがよく裕福そうであれば(こぞ)って押し寄せ、媚びを売ることに余念がない。
互いに言葉による攻撃や牽制の応酬をしながら笑顔の水面下で反撃をし、時間の経過に拘わらず根が深く非常に陰湿。
いびつなヒエラルキーの上に群れ、少しでも輪を乱せば容赦なく排斥する有象無象どもは、簡単に信頼を築くその癖にすぐに裏切り妬むのだから、本当にアタマが可笑(おか)しい。
脳味噌の代わりに生ゴミでも詰まってるんじゃないか?と思ったのも一度や二度ではない。

(人に嫉妬ばかりするその癖、徒党を組まなければ噛み付けないの?)

ああ。────地獄というものが存在するのならば、この退屈で億劫な世界こそが正にそれだ。
こんな掃き溜めに居続けるなんて冗談じゃない。もう、総てに対し我慢する必要はないと判じてからの行動は迅速だった。



(しがらみ)の精算として、今やすっかり叔母一家(シロアリ)の牙城と化した生家に残していた少ない私物を処分し、その日の内に勤務先の本社宛に退職届を叩き付けてやった。
これで完全に、自分に寄生するしか能のない叔母一家(クズども)の生活資金源がスッパリ寸断されるだろうことを期待しながら待つこと数ヶ月。
ちょくちょくヤツらの様子をみて解ったのは、多額の借金で既に首が廻らないどころか、身動き自体が取れなくなっている状況(こと)だった。

(ざまあないね、クズども)

この状況を完璧に確実に作り上げるまで、苦節11年。長らく待ち兼ねたが、やっと報復を果たす瞬間が訪れるのだから…堪え甲斐もあろうというもの。
どこまで膨らんでやがて爆ぜるのか、その瞬間を見届けるのが今後の楽しみだ。

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さて、それからしばらく時間が経って元勤務先から多少の退職金を受け取った……が、だからといって今までの不遇(パワハラ)を許した訳ではない。
勤め先には3年以上在籍していたからマニュアル作成なども任されており、退職前に引き継ぎが必要な業務マニュアルが殆んどだったのだが、皆さん(もちろん)ガン無視。

(ああ、そうですかそうですか。私が作成し(つくっ)たマニュアルになんぞ、引き継ぐ価値もないと?)

引き継ぐその気はないと判断し、腹いせに総て処分(シュレッダー)してきた。
…多分、今頃は上から下への大騒動だろうな。ざまぁwwww
憶測のみで嘯かれた低俗かつ事実無根の噂で個人の名誉を傷付けたクソ企業め、ざまあみろ!だ。
ちなみに、事実無根の噂を流した張本人は興信所を使って特定済みである。
コピー済みのパワハラの証拠データを本社宛に送付したその後、主犯の元上司と後輩はトントン拍子に然るべき機関に法の裁きを下され…職場を解雇されたとつい数日前に某関係者から報せをもらった。

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