だから、泣くな
序章

奏音(かのん)、いい加減起きなさい!遅刻するわよ!」
「んー、もう起きてるー」
階段の下から叫ぶ母に、目を閉じたままそう返事をする。私は朝が弱くて、毎日こうして母の怒鳴り声から朝が始まる。
のそのそと布団から出て身支度をしてリビングに行くと、既に父は出勤したあとのようだった。
「まったく、いつまで起こされるのよ。そんなんじゃ彼氏もできないわよ」
「…別に、彼氏とかいらないし」
「ほら、それより今日はお父さんの給料日だからみんなで外食しようと思うの。今日の夜は何か予定ある?」
「ううん、何もないよ」
「あらそう?じゃあ、夜までに食べたいもの考えてLimeしておいてね」
「はーい」
お母さんに学校でひとりぼっちだなんて、言えない。友達がいると嘘をつき、学校が楽しいと嘘をつく。
そうやって嘘をつくのも、もう懲り懲りだ。まぁ、今日もまた嘘をつくのだけれど。
「それじゃあ、お母さんもう行くから気をつけて行ってらっしゃいね。変な人に付いてっちゃダメよ」
「うん、大丈夫だよ。もう高校生だし。行ってらっしゃい」
「はーい、奏音も行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます!」
"行ってらっしゃい"そう母に言われ、私は笑顔で行ってきますと答える。心の中では休みたい、行きたくないと思っていてもそれを表に出してはいけない。
母は昔から心配性で、私に何かあるとすぐ駆け付けて来てくれた。そして、どんな理由があろうと必ず味方になってくれて沢山話を聞いてくれた。
そんな母を傷つけるのは、私にとって絶対にできないことだった。父も私に優しくて、嫌なことは無理にやらなくていいと言ってくれる。
私の両親は傍から見れば過保護かもしれない。それでも、私にとって両親はとても大切な2人だ。
きっと学校でいじめられていることやひとりでいることを話したら、違う学校に編入していいよって言ってくれると思う。だけどそれは、私自身のプライドが許さない。
やられっぱなしのまま逃げるなんて、悔しいじゃない。
「はぁ、学校行きたくない。何とかして休めないかな…」
いくら強がったって、学校が嫌なことに変わりはない。唯一の救いといえば私の親友である麗奈(れな)が優しく接してくれることくらいだ。
私がどんなにいじめられても態度ひとつ変えることなく、私を守ってくれる麗奈。いじめの矛先が麗奈に向いてしまったこともあって避けていた時期もあったけど、それでも私の隣にずっと居てくれた唯一の親友なのだ。
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