だから、泣くな
重い気持ちを抱え、少しでも時間が経ちませんようにと願いながら準備をする。いっそのこと布団に戻ってしまいたい気持ちをグッと堪える。
「こんな生活から解放されて、楽になれたらいいのにな…」
鏡に映る自分を見て、ボソッと呟く。目の下にできたクマを隠すためにファンデーションを厚く塗り、少しでも表情を明るく見せるために濃いめにチークを塗る。
「何のためにメイクしてるんだろう…」
考え出したらキリがないけど、それでも考えてしまう。メイク道具だって少ないお小遣いの中から買っているというのに、自分にとってプラスになる場面が一度もない。
いっそのことすっぴんで登校してみようかと思った日もあるが、それをネタにされていじめに繋がるのは目に見えている。とはいえ、メイク道具の出費は抑えたいのが本音だが。
この嘘をいつまで両親に見破られずに通せるのか、いつバレるのかハラハラする。それでも私は嘘をついているのだが。

私がいじめられるようになったのは高校に入って間もない頃、一軍グループにいじめられていた女の子を助けたことが原因だった。
私としてはただその子を助けたい一心で声を掛けたのだが、なぜかいじめの矛先が私にジョブチェンジした。そして、いじめから助けてあげた女の子にもいじめられる始末だ。
その日以来、学校に私の居場所はない。登校すれば靴がなくて、教室に行けば机がない。担任はいじめに気づいているのに、気づかないフリをしている。
そんな私を見兼ねて麗奈が助けてくれたけど、麗奈は私と違って気が強いからいじめっ子たちもすぐ飽きたのか再び私が標的となった。
SNSで悪口を書き込まれることは当たり前、お弁当の中身が捨てられるのも当たり前。挙句の果てには男子全員の前で下着姿になれと命じられ、脱がされたこともあった。
その時も麗奈が助けてくれて、全部脱がずには済んだのだけれど。
両親には友達がいると嘘をついているため、たまに友達と遊ぶからと遅く帰ることもある。そんな時は麗奈と遊ぶか、麗奈が忙しい時はネットカフェで時間を潰したりする。
麗奈以外の友達と遊んで遅くに帰ったことはないし、家に連れてきたこともない。それでも、両親に心配をかけたくなくて友達がいるフリを続ける。
「そろそろ行かなきゃ…」
重い腰を上げてカバンを肩にかけ、靴を履く。玄関の鏡の前で制服にシワがないか確認して、家を出る。

これは、最強を誇る暴走族CHERRY BLOSSOMの総長に救われ、私の人生を変えていく物語だ。
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