だから、泣くな
「クラスメイトがいじめに遭ってても見て見ぬふりしてる奴ら、全員同罪だからな。如月さんがどんだけ酷いことされたか、全員1回は見てんだろ」
桜井くんがそう言い、全員を睨みつける。いじめっ子たちは既に放心状態だったが、私がやられたことに比べれば桜井くんがやってることはまだまだ可愛いものだ。
「あの、桜井くん。これは一体…」
「昨日言ったじゃん。奏音の代わりに俺がやるって」
「朝から元気だね…」
「ちょっと奏音、そこはどうでもいいの。桜井くんだっけ?ちょっとこっち来なさいよ」
「ごめんね、麗奈ちゃん。もう少しだけだからちょっとまってて。奏音のこと連れて屋上にいて」
口調こそ優しいものの、桜井くんの目はちっとも笑ってなくて。その気迫に麗奈も押されたのか、大人しく2人で屋上に向かった。
「なんなのあれ、すっごい怖かったんですけど」
「桜井くんってなんかオーラあるよね」
屋上に着くなり、私と麗奈はさっきの桜井くんの表情を思い出して身震いした。昨日の電話ではすごい優しかったから、ちょっとびっくりした。
日差しは暖かいのに屋上に流れる空気は冷たくて、桜井くんが来るまでの時間が長く感じられた。

「お待たせ。2人とも、怖い思いさせてごめんね」
「桜井くん、あなたに言いたいことがあります」
「いいよ。話聞くよ」
桜井くんが来るなり、麗奈は目を吊り上げて桜井くんの前に仁王立ちした。身長は麗奈の方が小さいはずなのに、なぜか同じ大きさに見える。
「奏音のことたぶらかすのやめてくれますか?迷惑なんです」
「俺は別に奏音のことたぶらかしてなんかないよ。今は色々あって事情を話せないけど、俺はただ奏音のことを大切にしたいだけなんだ」
「その言い方がもう胡散臭いんですよ。奏音の何を気に入ったんですか?」
「麗奈ちゃん、もう少ししたら全て話すから少しだけ待っててくれないかな。そしたら、包み隠さず全部話すから」
「でもっ…」
「麗奈、これ以上は堂々巡りな気がするし、今は一旦引こうよ。桜井くん、ちゃんと話してくれるんですよね?」
「もちろん、全て話すよ。だから、もう少し待っててね」
「絶対話してよね。何か一つでも隠したら、あんたのことどこまでも追い詰めるから」
「分かった。約束する」
桜井くんとそう約束をすると、麗奈は少し表情を緩めた。なんで麗奈がそこまで毛嫌いしてるのかは分からないし桜井くんが何を隠しているのかは分からないけど、全てを話してくれるまで待つしかないよね。
< 10 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop