だから、泣くな
次の日、何となく寝不足のまま麗奈との待ち合わせ場所へ向かう。しかし、心なしか足取りはいつもより軽やかだった。
「おはよう、なんか今日の奏音いつもより明るく見えるね」
「そうかな?特に変わりはないけど…」
「桜井くんと何かあった?」
「べっ…別に?何もないけど?」
「奏音って、ほんと分かりやすい反応するよね。あの男と何があったのか、教えなさいよ」
麗奈にそう問い詰められ、私は仕方なく昨夜のことを話す。終始黙って聞いていた麗奈だが、急に私の方を向いてこう言った。
「あの男、奏音のことたぶらかしてるわ。奏音可愛いし美人だし、あわよくば自分のものにしようとしてるのよ」
「うーん、そんなことないと思うけどなぁ。麗奈が私に言う可愛いとか美人もよく分からないし」
「あんた、そろそろ自覚した方がいいわよ。本人が無自覚なだけで、あんためちゃくちゃモテてんのよ!?」
「え、私がモテてるの?麗奈じゃなくて?」
「私じゃなくて、か・の・ん・が!モテてるの!だからいつも私がボディーガードしてるのよ」
「でも私、一度も男子から話しかけられたことないし。いじめられてても助けてくれる人とかいなかったし」
「それは奏音が高嶺の花だからっていうのと、シンプルに自分がいじめに巻き込まれたくないからでしょ」
私の横でぷんすか怒っている麗奈を横目に、ぼんやりと考え事をする。私がモテてるなんて絶対有り得ないし、仮にモテていたとしても興味ないしなぁ。
それに、私から見れば麗奈が一番可愛いと思うし。誰がなんと言おうと、それだけは譲れないもんね。
「とにかく、桜井くんのところ行くわよ。私からちゃんと言ってあげるから!」
「え、ちょっと待ってよ!」
麗奈に手を引かれ、私は走って学校へと向かう。陸上部エースの麗奈と同じペースで走るなんて無理だし、既にしんどすぎる。このペースで走り続けたら、学校に着く頃にはお陀仏だよ。
そんな私の思いも虚しく、学校に着くと私の足はガクガクだった。麗奈は涼しい顔してるけど、私は肩で息をしないと苦しかった。
「相変わらず体力ないね、奏音は。さて、桜井くんのところに行くわよ」
「ちょ、ちょっと休ませてよ…」
「奏音の体力が回復するの待ってたら日が暮れるもの。桜井くん探して一言物申したら、ゆっくり休んでいいから」
再び麗奈に手を引かれてただ後ろをついて行くと、私たちのクラスの方が何やら騒がしかった。
「お前ら、ちゃんと覚悟はできてんだろうな?」
「ごめんなさい…許してください…」
「あ?そんなんで許されると思ってんのか?」
「さ、桜井くん!と…高橋優弥くん!」
「奏音おはよう。麗奈ちゃんもおはよう」
桜井くん、怖すぎません?
朝から他のクラスに乗り込んできていじめっ子罵倒とか、普通できないよ。
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