わたしのかわいいだんなさま

「今日は随分とお早いおでましですわね、殿下」
「うん。少し夢見が悪くて早く起きてしまった」
「まあ、大丈夫でしょうか?何かお気にかかることでもありましたか?」

 アルヴィンが白の離宮の門へと向かい呼び出しのベルを鳴らすと、頬を上気させたメリズローサがやってきて、早速アルヴィンへと声を掛ける。本当に優しい彼女は心配そうに、そう彼を気遣った。
 いや、大したことではないと口にしようとしたその時、大きな声で横やりが入った。正にあの、夢見が悪くなった元凶の声が。

「やだーっ、お嬢様それ以上突っ込んじゃいけませんよ。殿下への失礼に当たりますって!大丈夫ですよ、殿下。今日はかなりお天気もいいですからね、布団もすぐに乾きますって」
「何がだ、おいっ!」
「え、言わせないでくださいよ。不敬罪になっちゃいますって」

 もうすでにその言葉が不敬だと言ってやりたいのだが、メリズローサがその意味に気が付いていないようなのでグッと我慢し無視をした。

 アルヴィンはどうにもこのカリンというメリズローサ付の侍女が苦手でならない。
 大体がこんなからかい事など序の口で、記憶にあるだけでも池の中に突き落とされたり、せっかく持ってきたメリズローサへのプレゼントを台無しにされたりなど、結構なことをやられている。

 けれども何故かメリズローサのお気に入りの様で、一向にその側を離れることはないようだ。
 だったら少々の蛮行もやむを得なしと、アルヴィンもその不敬すぎる行いを容認するしかない。

 そういえばカリンも容姿が変わらなかったかな?
 と一瞬思わないでもなかったが、正直覚えていないしどうでもよかったので気にしないことにした。少なくともその行いと性格は全く変わってないことは確かだから、アルヴィンからしたら余計にどうでもいい。
 カリンとのやり取りに、むぅっと口をすぼめていると、横からトントンと指で突つかれた。

「殿下、殿下っ」
「なんだ、うるさいな」
「うるさいって、殿下そんな……」
「あら、今日のお付き添いは初めての方ね」

 そうメリズローサに尋ねられて気が付いた。そういえば、彼を忘れていたな、と。
 振り返れば、侍女の格好をして所在無げに立っているビーバリオがいた。

 元が線の細い美少年だけに、スカートが様になっていて、パッと見は十分女の子に見える。この白の離宮には男は絶対に近づけないようにと、アルヴィンの両親である陛下と妃殿下、それから侍女長には口を酸っぱくして言われているから、やっぱり女装させてきて正解だったと思って頷いた。

「ああ、最近側に仕えるようになった、ビー……バーだ。まあそんなことはいい。さ、入るぞ、メリー」

 アルヴィンが離宮の門の向こう側に立つメリズローサと正面に相対し、首をくいっと上げる。
 すると、ほんの少しだけビーバリオの方を気にしながらも、メリズローサは優しいキスをアルヴィンの唇に落とす。
 そうして、いつも通りの白の離宮の生活に入った。
< 24 / 30 >

この作品をシェア

pagetop