わたしのかわいいだんなさま
 王宮の隅に建てられた、白の離宮に住まう彼女は、この8年間全くといっていいほど様子が変わらない。少なくともメリズローサは相も変わらずの美しさと可愛らしさで、毎回アルヴィンを優しく迎えてくれる。
 しかし幼少期ならともかく一般的知識が増えてきたアルヴィンも、ようやく最近になってこれは少しおかしくはないかと思うようになってきた。流石にこの8年という歳月は少女という殻を脱ぎ捨てて、大人の女性へと変貌してもいい頃だ。
 実際、従姉妹にあたる公爵令嬢は毛虫が蛹、蛹が蛾に変化するようにその容姿を変化させつつある。

 つまりなにが言いたいかといえば、アルヴィンがずっと姉のように慕ってきたメリズローサだが、童顔といっても限度があるだろうということだ。
 そう考えた彼は、今日こそはその正体を知りたいと、とある計画を画策していたのだった。



「本当に行かなければなりませんか?アルヴィン殿下」
「構わん。付いてこい」

 王太子らしく鷹揚に答えるアルヴィンに対して、御付きの従者であるビーバリオ・トランドがそれはそれは嫌そうに言い放った。

「いえ、私の方が構います。何故私が女装して付いていかねばならないのですか。頭大丈夫でございますか? 殿下」

 言葉使いはそれなりに丁寧だが、言っていることは割とぞんざいなビーバリオは、こう見えても王太子たるアルヴィンの近侍の者としては一番の出世頭だ。
 シルバーグレーの髪にブルーグレーの瞳という見た目もそこそこいい上に、とにかく頭がよく処理能力にたけている。王太子付きの侍従として王宮で暮らしながら執務のことも学ぶ、今年15になる少年だった。

「当たり前だろう。僕のどこがおかしいというのだ。お前には、近くでメリズローサをしっかりと観察してもらい、その正体をつきとめてもらうのだ」

 計画と言っても所詮11歳の少年の考えること、そう大したものではなかった。
 そんなまどろっこしいことをしなくても、気になるなら国王陛下か王妃殿下に直接聞けばいいのにと思わないでもないビーバリオであったが、まあ流石にお立場とご公務があるからそんなに簡単にはいかないであろう。だったら仕方がない。
 それに王太子アルヴィンと数名の古参侍女以外は立ち入り禁止を徹底されている、白の離宮に全く興味がないわけでもないのだからと考え直す。
 そうしてお子様の茶番に付き合うかと、ビーバリオは侍女のスカートを渋々と履きだした。
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