名前のない贄娘

素直な心

翌朝、男に手を引かれ連れていかれたのは母屋の玄関の前であった。

そこにはあの女の姿もあり、腕組みをしながらジロリと二人の繋がれた手に視線を向ける。

急に恥ずかしくなった少女は手を離そうとするも、それを男は許さず、指と指を絡めて繋ぐのであった。


「こんな朝から呼び出して何かしら」

「私が曖昧にしていたのが悪かった。結論を出そうと思ってな」

「結論? それでは意味がわからないわ」

「すぐにわかるさ」


そう言って男は空いた手に光を浮かび上がらせて、それを地面に向けると、少女たちを囲い込むようにして光の壁が出来上がった。

少女には何が起きているのか理解が出来なかったが、女はすぐに把握したようで、目を見開いていた。


「くっ……これは、まさか」

「そうだ。人間の世界へ行く」


予想だにもしなかった言葉に、少女は思わず男の手を離してしまう。

それに驚いた男は少女を見つめ、手を伸ばす。

だが少女には男の出した結論がわかってしまい、その衝撃から大粒の涙をこぼした。

そのまま彼らは人間の世界へとたどりつき、光の壁はゆらゆらとしながら消えていく。

辺りを見渡すと、少女の目にはどこか見慣れた景色が映り込んでいた。


道を行き交う人々が足を止め、突如として現れた少女たちを困惑した表情で見つめた。

そう、人間の世界。

少女たちは男の力によって、少女を贄に出したあの村にたどり着いていたのであった。
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