恋ノ初風
筒井筒

出会い

『ありつつも君をば待たむうち靡(なび)く
わが黒髪に霜の置くまでに』
『現代語訳 このまま私は恋しいあなたを待ちましょう。私の黒髪に霜がおりるまで、白髪になるまでも。』
 ああ…キレイ!なんて綺麗なんだろう。この人はよっぽど彼のことが好きだったんだね。こんな和歌1つだけでストーリーが、情景が手に取るように浮かんでくる。和歌とはなんてきれいなんだろう。なんでこれをみんな知らないんだろう。もったいない!日本語の美しさをもっと知るべきなんだよ。
「何、明日の予習?入学式なのに」
「?!(りん)か。びっくりした。もう来るときはちゃんと言ってよ」
 窓から隣人の凛が入ってきた。彼は私の幼稚園来からの幼馴染だ。明日から晴れて同じ高校に進学することになった。何をするときもずっと一緒だったから幼馴染の肩書に親友を私は勝手に加えている。
「ごめんごめん。窓開いてたからつい」
 窓私は開けてた…?あ、そうだ。風が気持ちいからって開けてたんだっけ。だからって勝手に入っていいわけじゃ…いや、別に凛だからいいのかも?
「凛は明日の準備終わったの?」
「まだ。それより勉強やめやめ」
 凛が和歌集と古語辞典を無理やり閉じてきた。
「勉強じゃないってば。もう、せっかくいいところだったのに」
「好きだよなあ古語。ずっと俳句とか詩読んで」
「面白いのに。なんでみんな良さがわからないんだろ」
「人それぞれだろ。お前その辞典読んでるときめちゃくちゃニヤニヤしてるからな」
「え嘘…」
「だから絶対学校で読むなよ。変人って思われて登下校のとき変人と友達って思われたら嫌だ」
 凛は床に腰を降ろした。私は凛が閉じた窓を再び開けた。暖かい夜風に吹かれた髪がカーテンとともに揺れるのがわかる。
「あれ?はしごは?」
 すぐ目の前は凛の家でしかも凛の部屋。いつもはここにはしごを掛けて出入りするのに、今日は掛かってない。凛の部屋のベランダにも、私の部屋のベランダにも置いてない。
「飛んできた」
「はあ?この距離を?」
「飛べない距離じゃなかったからな。多分お前でも行ける」
 私は改めて部屋の距離を見て顔が引きつる。確かに飛べない距離じゃないかもしれないよ?私(160cm)よりは遠いけど、普通の男子なら飛べない距離じゃないのかもしれないけど、二階だし、そもそもフェンスの幅が小さいから踏み込みできないでしょ…。
「もう、明日入学式なんだから気をつけてよ。帰りは下から帰ってね」
「大丈夫だって」
「せっかくの入学式なんだから、怪我で無駄にしたくないでしょ?」
「もう、わかったよ。心配症だな」
「このくらいがちょうどいいの!」
 凛がここから出ないように窓に施錠を施した私は人差し指を立て勢いよく凛の方に回転した。
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