狂愛メランコリー

「縛りつけられてる花宮が可哀想だ」

 は、と息をつくように理人は笑う。

「どこが? 僕の想いは純愛だよ」

「ただの自己満足だろうが」

 ここまで独りよがりで凶暴な“純愛”があってたまるか、と思った。明らかに度が過ぎている。

 怯まず返すと、悠然と瞬いた理人が笑みを消す。
 うっとうしそうに目を細めた。

「……これ以上関わるなら、きみのこと()殺すよ」

 菜乃を殺すことはもはや前提のようだ。
 既にこの世界線のことは諦めているのかもしれない。

 けれど、そういう脅しなら話は単純だ。
 ただ、自分が菜乃に近づかなければ、距離を置けばいいだけ。

 どんな形であれ、こじれてしまうのなら────。

「……言われなくてもな。巻き込まれて迷惑なんだよ」

 冷たく言い残すと背を向ける。

 関わらないことで、彼女を救えるのだろうか。
 いまはそう信じるしかない。



     ◇



 昼休みになると、理人が姿を現した。

 殺しの動機を知ってから会うのは初めてで、何だかどう接するべきか迷ってしまう。

「菜乃」

 彼は彼で、いままでと何ら変わらない態度だった。

「お昼、一緒に食べよう」

「えっ」

(あ、しまった)

 慌てて口元を覆う。
 理人が今日クラス委員の集まりに行くことは、本来ならまだ知らないはずなのに。

「……嫌だった?」

「あ、ううん。ちがうの」

 不安気に眉を下げる理人に、慌てて首を横に振る。

「よかった。集まりがあるから、それが終わってからになるけど」

 ほっとした。特に疑われてはいないようだ。

(また、鎌をかけたわけじゃないよね?)

 今朝のことがあって“前回”よりも圧倒的に冷静ではなかった。

 いまのわたしに、理人と駆け引きをする気力なんてない。

「分かった、待ってるね」

「ありがとう」

 理人はどこか嬉しそうに柔らかく笑った。
 今回の彼は、随分と余裕そうだ。

 少なくとも、意図と記憶を持って動いているのは間違いない。

 教室を出ていく彼を見送ると、深く重たいため息をついた。

(向坂くん……)
< 71 / 182 >

この作品をシェア

pagetop