狂愛メランコリー
「縛りつけられてる花宮が可哀想だ」
は、と息をつくように理人は笑う。
「どこが? 僕の想いは純愛だよ」
「ただの自己満足だろうが」
ここまで独りよがりで凶暴な“純愛”があってたまるか、と思った。明らかに度が過ぎている。
怯まず返すと、悠然と瞬いた理人が笑みを消す。
うっとうしそうに目を細めた。
「……これ以上関わるなら、きみのことも殺すよ」
菜乃を殺すことはもはや前提のようだ。
既にこの世界線のことは諦めているのかもしれない。
けれど、そういう脅しなら話は単純だ。
ただ、自分が菜乃に近づかなければ、距離を置けばいいだけ。
どんな形であれ、こじれてしまうのなら────。
「……言われなくてもな。巻き込まれて迷惑なんだよ」
冷たく言い残すと背を向ける。
関わらないことで、彼女を救えるのだろうか。
いまはそう信じるしかない。
◇
昼休みになると、理人が姿を現した。
殺しの動機を知ってから会うのは初めてで、何だかどう接するべきか迷ってしまう。
「菜乃」
彼は彼で、いままでと何ら変わらない態度だった。
「お昼、一緒に食べよう」
「えっ」
(あ、しまった)
慌てて口元を覆う。
理人が今日クラス委員の集まりに行くことは、本来ならまだ知らないはずなのに。
「……嫌だった?」
「あ、ううん。ちがうの」
不安気に眉を下げる理人に、慌てて首を横に振る。
「よかった。集まりがあるから、それが終わってからになるけど」
ほっとした。特に疑われてはいないようだ。
(また、鎌をかけたわけじゃないよね?)
今朝のことがあって“前回”よりも圧倒的に冷静ではなかった。
いまのわたしに、理人と駆け引きをする気力なんてない。
「分かった、待ってるね」
「ありがとう」
理人はどこか嬉しそうに柔らかく笑った。
今回の彼は、随分と余裕そうだ。
少なくとも、意図と記憶を持って動いているのは間違いない。
教室を出ていく彼を見送ると、深く重たいため息をついた。
(向坂くん……)