狂愛メランコリー

「縛り付けられてる花宮が可哀想だ」

 は、と息をつくように理人は笑う。

「どこが? 僕の想いは純愛だよ」

「ただの自己満足だろーが」

 眉根を寄せ、仁は怯まず言を返した。

「…………」

 悠然と瞬いた理人が笑みを消す。

 鬱陶しそうに目を細める。

「────これ以上関わるなら、君のこと()殺すよ」

 菜乃の殺害は最早前提のようだ。

 既にこの世界線のことは諦めているのかもしれない。

 だが、仁に諦める気はなかった。

 そういう脅しなら話は単純だ。

 ただ、自分が菜乃に近づかなければ、距離を置けばいいだけである。

 ……先ほど、突き放して正解だった。

 とにもかくにも理人の望みは、彼が菜乃と結ばれること。

 二人だけの世界で生きていたいのだ。

 そのために邪魔者は残らず排除する、という考えなら、最初から自分が関わらなければいい。

 どんな形であれ、こじれてしまうのなら────。

「……言われなくてもな。巻き込まれて迷惑なんだよ」

 突き放すことで、関わらないことで、菜乃を救えるのだろうか。

 ……今は、そう信じるしかない。

 仁の言葉を受け、理人は満悦したように微笑んだ。



*



 昼休みになると、理人が姿を現した。

 彼の殺しの動機を知ってから会うのは初めてで、何だかどう接すればいいのか迷ってしまう。

「菜乃」

 彼は彼で、今までと何ら変わらない態度だった。

 まだ、記憶のことには気付かれていない……?

「お昼、一緒に食べよう」

「えっ」

(あ、しまった)

 慌てて口元を覆う。

 理人が今日クラス委員の集まりに行くことは、本来ならまだ知らないはずなのに。

「……嫌だった?」

「あ、ううん。違うの」

 不安気に眉を下げる理人。

 慌てて首を横に振る。

「よかった。集まりがあるから、それが終わってからになるけど」

 ほっとした。特に疑われてはいないようだ。

(また、鎌をかけたわけじゃないよね?)

 今朝のことがあって“前回”よりも圧倒的に冷静ではない。

 今の私に、理人と駆け引きをする気力なんてない。

「分かった、待ってるね」

「ありがとう」

 理人はどこか嬉しそうに柔らかく笑った。

 今回の彼は、随分と余裕そうだ。
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