狂愛メランコリー

 彼が信じている“私に記憶がない”という前提が、私へ向く懐疑の目を逸らしてくれていた。

(でも……)

 私、どうすればいいんだろう。

 ────“前回”、痛いほど分かった。

 理人には何を言っても無意味だって。

 結局、彼は私の気持ちなんてどうでもよくて、自分の望みを叶えたいだけなのかもしれない。

 だから、想いを拒んだら殺される。

 かといって受け入れても、私の心が向いていないことくらい理人はお見通しなはずで、それはそれで充分殺しの動機になりうるわけで。

 どっちに転んでも、私は殺される……?

(だけど)

 一旦想いを受け入れたふりをして4月30日を越えられたとしても、理人の本質はきっと変わらない。

 彼の理想と少しでもずれたら、いつでも私に牙を剥くはず。

 逆に、下手にこの3日間を抜け出してしまったら、その後は殺されても生き返る保証はない。

『僕と一緒に死のう』

 澄み切ったように狂気染みた彼の様子を思い出した。

 理人は自分の死だって厭わない。

 あの透明な雰囲気は、諦めていたからだったんだ。

 私の心を得られないなら、私が他の誰かを想うなら、私を殺して自分も死のう────。

 なんて、本当にいびつな想いだ。

 ループがなくても同じ選択をするのかな?

 私には到底理解出来ない。

(……あ、そっか)

 それと同じように、理人も私の気持ちが理解出来ないのかもしれない。

 だから、何を言っても響かない。

 分かってくれない。
 分かり合えない。

 理人の中では、私が彼のそばにいることは当たり前で、私が彼だけを見ていなければおかしくて。

 彼にとっては、私が彼と同じ気持ちじゃないことこそが異常なのかもしれない。

「…………」

 でも、じゃあ────どうすればいいの?

 何をすれば、死に抗えるの?

 理人に殺されずに済むの?

(もう分かんないよ……)

 殺しの動機も、記憶の法則も、色んなことが判明したのに、現状は八方塞がりだった。

 そもそもこの世界に正解なんてあるの?

 私が殺されない結末なんて、本当に存在するの……?
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