壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜



***



――それから里から逃げ、あてもなく彷徨い、たどり着いたのが海だった。

幾たびも押し寄せる波を見て、葉名は青い光を見る。



「なんと不思議な。水がどこまでも続いております」



ぐうぅ、と腹が鳴り、帯の上からお腹を撫でる。



(最近、ろくに食事もとれておりません。それにやたらとムカムカします。……当然ですね、自分に腹立たずにはいられない)



目まいがする。

吐き気がする。



「うっ……これは本当に、キモチワルイです」



立っていられず、葉名はその場に膝をつく。

砂浜に手をつき、ダラダラと流れる汗と荒ぶる息を整えようと、酸素をとりこもうとする。

そこに馬の鳴き声が聞こえ、パカパカとした音が聞こえた。



「これは……」



馬に乗っていた男が下りてきて、葉名へと駆け寄ってくる。



「君、大丈夫か?」

「お腹が……」

「え、ええ!?」



ワタワタと焦りだし、どうしたものかと手をさ迷わせる。

そんな男を見て眉間にシワを寄せ、女が走ってくる。

困惑する男を突き飛ばし葉名の背をさすりだした。



「桐人様、何をボサっとしているのです!?」

「お、お柚……」

「……お腹にお子がおられるかもしれません」

「なんと!? に、妊婦なのか!? だが腹が平たいではないか」

「初期は見ただけでわかりませぬ! ……とても弱っておられます。早くお医者様のところへ運び、安静にしていただかなくては」



手ぬぐいで葉名の汗を拭う。

そっと葉名を介抱するぬくもりに葉名は薄らと目を開く。



「桐人様! 早く動いてくださいな!」

「は、はいっ!!」



女に叱られ、桐人は医者を呼びに走っていく。



「こんなに弱られて……。大丈夫ですからね。すぐお医者様連れてきます。お水、飲まれますか?」

「……ありがとう、ございます」



蒼依を失い、孤独にさ迷っていた。

そんな葉名を助けてくれたのはとある国の殿様で、女性はその奥方であった。

危機的状況だったが、二人のおかげで無事に母子ともに救われるのだった。



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