壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
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――それから里から逃げ、あてもなく彷徨い、たどり着いたのが海だった。
幾たびも押し寄せる波を見て、葉名は青い光を見る。
「なんと不思議な。水がどこまでも続いております」
ぐうぅ、と腹が鳴り、帯の上からお腹を撫でる。
(最近、ろくに食事もとれておりません。それにやたらとムカムカします。……当然ですね、自分に腹立たずにはいられない)
目まいがする。
吐き気がする。
「うっ……これは本当に、キモチワルイです」
立っていられず、葉名はその場に膝をつく。
砂浜に手をつき、ダラダラと流れる汗と荒ぶる息を整えようと、酸素をとりこもうとする。
そこに馬の鳴き声が聞こえ、パカパカとした音が聞こえた。
「これは……」
馬に乗っていた男が下りてきて、葉名へと駆け寄ってくる。
「君、大丈夫か?」
「お腹が……」
「え、ええ!?」
ワタワタと焦りだし、どうしたものかと手をさ迷わせる。
そんな男を見て眉間にシワを寄せ、女が走ってくる。
困惑する男を突き飛ばし葉名の背をさすりだした。
「桐人様、何をボサっとしているのです!?」
「お、お柚……」
「……お腹にお子がおられるかもしれません」
「なんと!? に、妊婦なのか!? だが腹が平たいではないか」
「初期は見ただけでわかりませぬ! ……とても弱っておられます。早くお医者様のところへ運び、安静にしていただかなくては」
手ぬぐいで葉名の汗を拭う。
そっと葉名を介抱するぬくもりに葉名は薄らと目を開く。
「桐人様! 早く動いてくださいな!」
「は、はいっ!!」
女に叱られ、桐人は医者を呼びに走っていく。
「こんなに弱られて……。大丈夫ですからね。すぐお医者様連れてきます。お水、飲まれますか?」
「……ありがとう、ございます」
蒼依を失い、孤独にさ迷っていた。
そんな葉名を助けてくれたのはとある国の殿様で、女性はその奥方であった。
危機的状況だったが、二人のおかげで無事に母子ともに救われるのだった。