Melts in your mouth
ただでさえ静かだったオフィスが余計に静まり返った気がした。
唐突に投下された言葉に理解が追い付いていないのか、平野がフリーズしている。長い睫毛を何回も瞬かせている姿から察するに、随分と困惑している様だった。
「永琉先輩…あの…今何て?」
「恋に落ちてるって言った。」
「誰が誰に?」
「あんた話聞いてた?私があんたに。」
「え、ちょっ、ちょっと待って、夢だ。これは絶対に俺の都合の良い夢だ。」
おいおいおいおい、人の人生最大の告白を夢にすんなよ。てか、いつもの自信に満ち満ちている貴様は何処に消えたんだ。
頭を抱えて慌てふためいている平野からは、余裕の欠片も見当たらない。酷く動揺しているのか、空っぽのコップを必死に啜っている。
「平野。」
コップを持っている方の平野の手首へ手を伸ばして捕らえれば、挙動不審をやめた相手がこちらに視線を絡めた。
嗚呼、爆発しそうな程に心臓が高鳴っている。前髪の奥から覗いている相手の綺麗な瞳には、緊張で様子が可笑しくなっている私の顔が映し出されている。
「平野、好き。」
「…っっ…永琉先輩。」
「まんまと、平野を好きになってしまったみたい…うわっ「どうしよう、幸せ!!!」」
平野の瞳が潤んだ様に見えた刹那、飼い主に飛びつく大型犬の如く両腕を広げた平野が私を包み込んでいた。