Melts in your mouth



人生どう転ぶか分からない。人の感情だってどう移ろうか分からない。

実際、私は目障り極まりない平野を呪い殺すまでは辞職しないと決めていたはずなのに、そんな平野に恋をしてたった今その平野が恋人になった。


洒落た照明が放つ淡くて優しい光の下、ラグマットに押し倒された私の上で優艶に笑んでいる美しい男が、遠慮なく私の唇にキスをする。

以前この男に抱いていたはずの嫌悪感なんてのは沸いてこなくて、相手からの容赦ないキスに心臓がバクバクと音を立てるばかりだ。


好きだ。そう思う。

犯罪すれすれの合法ストーカーだけど、一度この男に恋をしてしまっている今、どんな事実も愛おしい。



「先輩、触れて良いですか?」

「うん。」


“いっぱい触って”



自分の口から出る熱に浮かれたらしくない声も言葉も、全部平野のせいだ。

頬を紅潮させて「可愛い、これ以上俺の理性殺さないで」そう零して、唇に噛み付いてきた相手に私の身体も熱を孕む。


溶ける。平野の酷く甘くて熱い口腔内で、ドロドロに溶けていく。



「ねぇ平野…。」



もしもランプの魔人に何でも三つの願いを叶えて貰えたらどうする?なんて会話を誰しも一度はやった事があるだろう。

「どうしようかな~」と頭を抱えて本気で考えた青春時代もあったけれど、今なら迷わず即答できる気がする。しかも三つもは要らない。一つで構わない。だから魔人でも神様でも最悪悪魔でも良いから、どうか私の願いを聞いて下さい。


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