Melts in your mouth
あ、やべ…そう思っても時すでに遅し。前言撤回なんてできるはずもなく、唐突に質問をぶん投げられた相手が微かに動揺を見せた。そりゃあそうだよな、なんかごめん山田。
「なーんてね!今のは忘れて」って言うべきか?そうなのか?でも何かそれはそれで変に思われないか?わざとらしさが浮き彫りにならないか?いやそもそも何で私こんなに焦ってんだ?
激しい自問自答を繰り返している最中でも、しっかりと美味しい山田弁当。陽だまりに晒されている山田の頬には、彼の長い睫毛の影が伸びている。
クソッ、どいつもこいつもイケメンは皆睫毛まで長いのかよ。どっかの月刊女性マンガ誌の編集部で余裕風ばっか吹かせてる誰かさんも、お人形みたいに睫毛が長かったよな確か。
そして二人揃って長い睫毛に恵まれているだけでなく、その睫毛がちゃんとくるんと上を向いている。私なんてビューラーとマスカラ下地とマスカラという三種の神器を駆使してやっとこさ認識できるレベルの睫毛だってのに、この世は全く不平等だ。知ってたけど。
「菅田がそんな質問してくるなんて珍しいな。」
「それな。正直自分でも意外だと思う。」
「アハハ、何だよそれ。」
私の手元にあるお弁当の残りは約三割といったところだろう。ここで漸く自分の弁当を広げた山田は、お箸を持ちながら「いただきます」と小さく声を漏らして卵焼きを摘まんだ。
どれだけ低く見積もっても山田ってモテるよな。絶対に異性が放って置かないと思う。だってハイスペックだし、私の知る人間の中で一番気配りができて優しいし、実際学生の頃は告白ばっかりされてた様な記憶が薄っすらある。
「別にあるけど?」
「……へ?」
「恋人を作る気だろ?全然あるよ。好きな人いるし。」
「え、マジ?初めて聞くんだけど。」
「だろうな、初めて言うし。まぁ、中々険しい恋路だから実るか分かんないけど。」
「そっか。」
「でも、ちゃんと振り向いて貰えるように頑張ってるつもり。」
窓から射す陽の光と同じくらい柔らかな笑みを湛えた相手が、徐《おもむろ》に利き手の左手を伸ばして私の口の端を指で撫でた。
「米粒付いてんぞ。食べ盛りの子供かよ。」
「…っっ…ちょっと、早く言ってよね、自分で取ったのに。」
山田の人差し指にちょこんと乗っている米粒を見て若干全身が火照る。いくら面倒見の良いお母さんみたいな山田といえど、ここまでされると流石にこっちも恥ずかしくなる。
それなのに山田は、唇に描いた弧を崩さないまま私を映す眼を細めた。