星空の下で愛を♦年下看護師の彼は彼女に一途な愛情を注ぐ♦
浜辺に視線をやると、小さなカニがちょこちょこと歩いているのが目に留まる。 穴に入って行くのを見て、帰る家があるって羨ましいな……と、そう思ってしまう。

じっとそれを見つめていると、横に遠山くんの気配を感じた。


「でも、母親も別の男といなくなって、高校を卒業と同時に家を出た。 両親を見てて思ったの。 〝この世に本物の愛なんて存在しないんだ〟って」

「……井筒さん」

「わかったでしょ? 私が梅沢先生との関係を持っている理由が。 本当の恋をしたって、きっと裏切られるに決まってる。 それなら最初から、偽りでいいのよ」


言いながら、鼻の奥がツンと痛くなってくるのがわかった。

梅沢先生との関係にも、きっと未来はない。 いつか奥さんと別れて……と期待していたけれど、ここ最近それは難しいのではないかと、薄々感じていた。

やっぱりそれは本物の愛ではないから。 梅沢先生には愛する奥さんと子どもがいて、その関係を切り離すことは無理なのだ。


「ごめんね? こんな重い話して。 もう帰ろうか、明日も早いし」


泣きそうになっているのを知られないように、帰ろうとくるっと振り返って堤防を降りる。
それなのに、降りたと同時に背後にぬくもりを感じ、そのまま抱きしめられてしまった。


「……遠山、くん…?」


なにも言わずに、彼は私のことを強く抱きしめたままで、この場所だけ、時が止まったように感じていたーー。
< 54 / 144 >

この作品をシェア

pagetop