星空の下で愛を♦年下看護師の彼は彼女に一途な愛情を注ぐ♦
スマホに異常があるわけでもない。 テレビが壊れたわけでもない。


ーー俺の、左耳が聞こえにくくなってきている。


かろうじて右耳は正常なようで、周囲の音を感知していた。 それが、不幸中の幸いだ。
今日は日勤だし、とりあえず出勤はできると思う。

顔を洗って身支度を整えると、俺は家を出た。

途中、何度か自転車にぶつかりそうになりながらも、やっとの思いで勤務先である病院へ到着。
ナースステーションで、いつもの様に仕事を始めた。


「……山くん。 遠山……くん!」


誰かに名前を呼ばれ、慌ててそちらを向く。 と、先輩看護師である糀谷|《こうじたに》さんが、心配そうに俺のことを見ていた。

糀谷さんは以前カンファレンスへの参加を進めてくれた、看護師歴6年の頼りになる女性だ。
もう少し独り立ちできるまでは、基本同じシフトに入らせてもらっている。


「ちょっと、遠山くん大丈夫? さっきから、ずっと読んでいるのに反応ないし」

「あ……すいません。 ちょっとトイレに……」


電子カルテへの入力を中断し、逃げるようにして席を立つ。 このままだと、周囲にバレてしまいそうだ。

とりあえず、仕事が終わったら早めに耳鼻科へ行かなければ……。
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