運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜

プロローグ

「この度、副社長に就任させていただく田崎悠太です。皆様のご期待にそえるように、精進して参ります。ご指導ご鞭撻賜りますよう、よろしくお願いいたします。そして、私事(わたくしごと)ではありますが、来栖亜美さんと婚約いたしましたことをご報告申し上げます」

 会場は盛大な拍手に包まれている。

「……」

 ただ一人、さくらだけが訳が分からず呆然とする。それもそうだろう。今の今まで彼氏だと思っていた人物が、目の前の舞台上で隣には知らない女性が立ち、ふたり仲睦まじく婚約を発表しているのだから……。

 今は『田崎ホールディングス』の50周年を祝うパーティーの真っ最中で、神楽坂グループのホテルで行われている。

 神楽坂グループは、金融、ホテル、不動産、石油、海運、食品、飲食業などあらゆる業種を傘下に持つ世界的に知られている巨大な企業だ。

 田崎ホールディングスも神楽坂グループ傘下で外食部門に属している。

 そして、さくらは悠太の秘書であり、恋人だった。はず……。

 今この瞬間まで、恋人関係を解消した事実はない。さくらにとっては、意味のわからない状況だ。

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