【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。
──社長と並んで座る後部座席。

返してもらった靴を履き直し、背筋を伸ばす。

 さすが高級車だ。シートは深く身体を包み込み、革のなめらかな感触が心地いい。

 けれど、広々としたはずの車内が妙に狭く感じるのは、隣に座る彼のせいだろう。

 わずかに肩が触れそうな距離、ふと漂う香水とスーツの生地の匂い。

圧倒的な存在感に胸がざわつき、落ち着くどころか息苦しくなる。

 沈黙に耐えきれず、私は口を開いた。

「あの……逃げるような形になってしまって、すみませんでした」

「逃げるようなじゃない。完全に逃げただろう」

 呆れを含んだ低い声。胸の奥がひやりとする。

「いけない時間に残業していたので……怒られると思って」

「たしかに、遅すぎる時間だな。……で、なにをしていた?」

「仕事が残ってしまって。できないと思われるのが嫌で、みんなが帰ったあとに……」

「タイムカードは?」

「退勤を打って、一度帰宅してから、また……」

 嘘をついても仕方がない。正直に白状した。

「それじゃ残業代は出ないだろう。駄目だな」

「……はい。おっしゃる通りです」

 社長は足を組み、顎に手を当てて考え込む。

その横顔は、街灯の光を受けていっそう端正に際立っていた。

「……なるほどな」

「あの……私、クビですか?」

 怯えるように社長を見上げる。

 まさか、この程度でクビなんて……一流企業が、そんな理不尽なことをするはずが──。
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