君のために出来る事-君に伝えたかった言葉と伝えられなかった事-

#3 プロローグ その3

 目覚まし時計がけたたましく鳴って、うっすらと目を開けると、カーテンの隙間から入ってくる日差しが眩しい。
「良い天気」

高校に入学して、今日は部活初日。
昨夜はあんまりワクワクして眠れなかったから、まだ幾分眠い。
「先輩、わたしの事覚えてるかな…」

わたしは中学の時、同じ美術部の部長が進学した高校を進路希望にした。
自分の成績からは少し難易度が高かったけど、どうしても先輩と同じ高校に行きたかった。
「無理して合格出来たとしても、入ってからが大変だぞ」
そう忠言してくれる先生の言葉もあったけど、とにかく二年間頑張った。

先輩はわたしの初恋の人。
別に彼女になりたいとか思っている訳じゃない。
一緒の学校に通えて、同じ部活に入れて、先輩の側に居られたらそれだけで嬉しい。
当然、先輩が卒業してから二年も経っているのだから、彼女がいるに決まっている。
わたしは、自分の身の丈をよく判ってる。
顔なんて中の下で不細工だし、スタイルが良い訳でもない。
他人(ひと)に自慢出来る所なんて何一つ無いつまらない女。
だけど、せめて好きな人の側で、顔が見れたら、声が聞けたら、それだけで嬉しい。
それ以上の事は何も望んでいない。
それ位ならきっと、わたしみたいな女の子にだって許されるはずだ。

放課後の部活で、二年ぶりに先輩と会える事を思ったら、その日の授業は中々身に入らず、上の空でいることが多かった。
部室に向かっている時は、胸がドキドキして、不安と期待で泣きたいのか、嬉しいのか判らない感じだった。

部室の前に行くと、男の子が居てドアを開ける所だった。
わたしも、その後を遠慮がちに入っていく。
彼は、端正な顔立ちで、ストレートのサラサラな髪を横分けにしている。
部活が一緒でなければ、わたしなんかとは絶対に接点さえ持てない様な人だと思う。
「佳作ですから、入選したとは言えませんよ」
コンクールの選考の話が部長からされた時、表情も変えず他人ごとみたいに答えていたから、もしかしたら、その話はされたくなかったのかな…

わたしからしたら、佳作だってすごいと思っちゃうのに、上手い人はやっぱり違うんだね。
そう思っていたら、彼と目が合った。
『なんか怖い顔して睨んでる?』
そうだよね。わたしみたいな不細工に見られてたら気分悪いに決まってる。
『ごめんなさい!』
わたしは慌てて目をそらした。

先輩が、わたしの入部届けを見て思い出してくれる。
「春日中学の?」
「はい、部長お久しぶりです」
もう、死んでもいい位嬉しい。
これから一年、また先輩の側で好きな絵を描いて居られる。

『本当に良かった。頑張ってこの学校に入って』
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