憧れのCEOは一途女子を愛でる
 まるで俺が一目惚れをしたかのような言い方だ。だけど「それはない」とは言えなかった。
 よく働いてくれそうだとか真面目そうだという正当な理由のほかに、無意識に惹かれた部分があったのかもしれない。例えば、女性として魅力的だ、とか。

「で、おじいさん同士も友達だったわけだし……こういうのってさ、なんて言うか知ってる?」

 俺が無言のまま表情だけで話の続きを促すと、朔也はこちらを見ながら茶目っ気たっぷりに右手の人差し指を立てた。

「運命の出会い」

 朔也の性格は知り尽くしていると思い込んでいたけれど、こんなにもロマンチストな部分を持ち合わせているのだと改めてわかり少々驚いた。
 自慢げに言い切る朔也に、恥ずかしげもなくという意味を込めてクスクス笑ったものの、そのとおりだなと内心では腑に落ちていた。

「朔也、お前はどうなの?」

「なにが?」

「決着つけなくていいのか?」

 今まで機嫌よく笑みをたたえていた朔也が、俺が問いかけた途端に顔を引きつらせて黙り込んだ。自身の恋愛話になると朔也はいつもこうだ。

「このままでいいんだよ。俺は脈なしだからな。期待するのはとっくに辞めた」

「前から思ってたけど、さすがに消極的すぎないか?」

 第三者の俺から見ると、ただ単に告白のきっかけを失っているだけのような気がする。出会ってから現在までの年月が長いせいだ。
 今まではっきりと聞いてはこなかったけれど、俺はずいぶん昔から朔也の中にある秘めた恋心に気付いていた。

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