目に視えない私と目が見えない彼

「わ、私、まだ時間が残ってるので現世に戻ります」


気まずい空気に耐えられなくて事務所を後にして、現世に戻ってきた。



大河先輩は自宅に帰ってきていたので、来衣先輩と顔を合わせずに済んで正直ほっとしていた。今、来衣先輩に会ったら、感情のコントロールができなくなりそうで怖かった。

それからのことは正直よく覚えていない。

柊の言葉と、来衣先輩のことが頭から離れずに、これからどうしたらいいのか、ずっと考えていた。

柊の言う通りだ。
このまま来衣先輩と関わりを続けたら、好きな気持ちが膨らんで、もっと辛くなってしまう。

目の前には大河先輩がいて、守護霊代行の任務をしなければいけないのに、頭の中ではずっと来衣先輩のことを考えていた。



スマホのバイブレーションの振動が伝わる。
スマホの画面を確認すると【任務終了】の文字が表示されていた。

あ、もう終わりなんだ。
上の空で大河先輩のそばで見守りをしていると、あっという間に時間が過ぎていた。

大河先輩は心なしか今朝会った時より、表情が柔らかくなったような気がした。

そんな彼をみて、これから先の来衣先輩と大河先輩の関係が上手くいきますように。そう願わずにはいられなかった。
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