幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
「私の母は、桐生家に通いで働くシングルマザーでした。もともと身体が弱かったのですが、私が高校2年生の時に急に体調を崩してそのまま…。一人残された私を、旦那様と奥様が引き取って育ててくださったのです」

朱里は思わず息を呑む。

(知らなかった、そんな…)

菊川は、落ち着いた口調を変えずに続けた。

「屋敷で暮らしている間、何か私にも出来ることはないかと思い、瑛さんやお嬢様のお世話をするようになりました。特に瑛さんはまだ幼稚園児だったので、常に目が離せず、いつも私がお供しました。朱里さんと知り合ったのはその頃です。とても可愛らしい笑顔で、あかりです!と私に挨拶してくれました。ランドセルを買ってもらった時も、嬉しそうに私に見せてくれたんですよ」
「そうだったんですか。私、全然覚えてなくて。気づいた時にはいつも菊川さんが近くにいてくれたから…」

いつの間にか朱里の家の前に来ていた。
立ち止まって二人で向かい合う。

「そうですね。私もいつも朱里さんの成長を見守ってきました。運動会も応援に行きましたし、夏休みには一緒に瑛さんの別荘に泊まりに行きましたよね」
「ええ。その頃の記憶は少しあります」
「朱里さんがどんどん素敵な女の子に成長していくのが、私もとても嬉しくて。夕べ、あなたに危害が及ぶかもしれないと思った時は、我を忘れるくらい必死で犯人を捕まえました。あなたが無事で、本当に良かった」

そう言うと優しく朱里に笑いかける。

「しばらくは朱里さんの部屋の近くに泊まりますから。何かあったらすぐに窓を開けて知らせてくださいね」
「はい、ありがとうございます」

朱里はうつむいたまま頭を下げると、それじゃあ、と門扉を開けて中に入る。

玄関の鍵を開けて振り向くと、まだ菊川は朱里を見守っていた。

はにかんだ笑みを浮かべてペコリと頭を下げる朱里に、菊川は小さく頷いてまた優しく微笑んだ。
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