幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
第十二章 愛の夢
「奏先輩。私、本当にこの曲を弾いてもいいのでしょうか?」

いつまで経ってもつかみきれず、演奏会まであと少しと迫った日の練習で、朱里は奏に恐る恐る尋ねた。

「なんでだ?お前はこの曲、弾きたくないのか?」
「弾きたいです。でも、今の私の状態でお客様に聴いて頂くのは、心苦しくて」

奏は椅子にもたれかかってしばらく考え込む。

「朱里。演奏会は俺達だけでなく、その場のお客様も一緒になって、その時限りの音楽を作り出すものなんだ。今、この練習室で演奏しているお前の音を再現する場ではない。いいか?当日、お客様の想いも感じ取りながら、心のままに演奏してみろ。技術的な事ばかり考えずに、心を音楽で満たして演奏するんだ。恐れずにのびのびとな。そうすれば必ずお客様にもお前の音楽は伝わると俺は思う」

それに、と奏は続けた。

「俺が今のお前に、この曲を弾かせたいと思ったんだ。この曲と一緒に自分の気持ちと向き合ってみろ。きっと何か新しい世界が見えてくるはずだ」

朱里は奏の言葉を考えながら、光一と美園に目を向ける。

二人とも、優しく笑って頷いている。

やってみよう、仲間を信じて。
この曲、そして自分の心に素直に向き合ってみよう。
自分の想いを全て音に乗せ、音楽で心をいっぱいに満たそう。

朱里は三人に力強く頷いてみせた。
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