幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
第十三章 CSR活動
 しばらくして、朱里は雅に頼みたい事があり、桐生家に出向いた。

 瑛は不在で、朱里は雅や優、瑛の母と一緒にリビングでお茶を飲む。

 「朱里お嬢様。今日はモンブランをご用意しましたのよ」

 千代が笑いかけながらテーブルにケーキを置いてくれた。

 「うわー、美味しそう!なんて美しいモンブラン」

 桐生家の料理人達が作ってくれたのだろう。
 秋らしさを感じながら、朱里はじっくり味わった。

 すると瑛の母が話し出す。

 「朱里ちゃん。先日のカルテット、素晴らしかったわよ」
 「ほんと!優も楽しそうでね、車掌さんのモノマネは、ケラケラ笑ってたし。でも一番はやっぱり、朱里ちゃんの『愛の夢』!本当に素敵だったわ」

 雅が思い出したようにうっとりする。

 「そうよねえ。もう朱里ちゃんの愛が満ち溢れてたわ。なんだか心の中まで温かくなるようで」
 「そうそう。私、涙がじんわり浮かんできてね。それに朱里ちゃん、瑛の顔見た?」

 いきなり瑛の話題になり、朱里はギクリとする。

 「え、いいえ」

 すると雅は声のトーンを落とした。

 「あの子ね、凄く感銘を受けたみたいよ。涙を浮かべてぼう然としながら朱里ちゃんを見てたの。拍手もしないで、自分が泣いてることにも気づいてないみたいだった。思考回路が止まったみたいに、ひたすら朱里ちゃんだけを見つめてたわよ」

 え…、と朱里は言葉に詰まる。

 瑛の母がしみじみと語り出した。

 「きっと朱里ちゃんの演奏が、誰よりも心に響いてきたのね。小さい頃からずっと一緒だったもの。あなた達は色んな気持ちを共有してきたのよね。瑛にしか分からない朱里ちゃんの音もあったのではないかしら」

 瑛が、私の音を…?
 私が幼い頃を思い出して、瑛に捧げたあの曲を、瑛はしっかりと受け取ってくれたの?

 朱里の胸に、また切なさが込み上げる。

 (いけない。あの曲は私にとって、瑛への別れの言葉でもあったんだから)

 ギュッと口元を引き締め、朱里は顔を上げた。
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