Good day !
まずはクラブアプローチ。
機首を風上に向け、風下に流されないようにする。

そして風上にバンクを取りつつ、旋回を止めるように風下側にラダーを取る、ウイングロー法式で着陸する。

片方の翼を下げることにより、下げられた翼の方にサイドスリップしようとする力を利用して、横風の力に対抗するのだ。

しかしウイングローは、風の強さにより必要なバンク角やラダー量が変化したり、少しスリップさせながらの飛行になる為、通常よりも難しい技術が要求される。

バンクも、深く取りすぎるとエンジンや翼の端を地面に擦ってしまうので、バンク角は常に5度程度以内に維持しなければならない。

また、メインギアが接地するタイミングが左右で違ってくる。
風上側が先に接地をしてから、風下側、ノーズギアの順番で接地することになるのだ。

バンクが入ったまま地面に近づいたり、メインギアが同時に接地しないことで思わず危険を感じてしまうが、クラブで斜めに接地するより安全だ。

頭の中ではやるべきことは分かっている。
だが、実際に風を読みながら冷静に実行するのは至難の業だ。

恵真は、はやる気持ちを抑えつついつもの手順に集中する。

「Approaching minimum」
「Checked」

大和の声も落ち着いている。

「Minimum」
「Landing」

大和が着陸を決心し、恵真も覚悟を決めた。

翼は大きく揺れ、機体もふらふらと落ち着かない。

だが、大和は下りるつもりなのだ。
恵真は、ぐっと滑走路を見据えた。

『One hundred』

いつもなら次々と流れるような自動音声のコールも妙に遅い。

『Fifty…』

ようやく地面に近づいた。

『Ten』

いつもならこのあとすぐに接地するが、大和はまだタイミングを狙っていた。

風上に翼を傾けながら、地面すれすれで止まっている状態に、恵真は思わず身体に力が入ってしまう。

すると、ふと風が弱まり機体が安定する瞬間が訪れた。

(あっ、今だ!)

恵真がそう思った時には、既に風上側のギアが接地していた。

2秒ほど片輪で走ってから、風下側のギアも接地する。

恵真は急いでスピードブレーキ・レバーの位置を確認した。

「Speed breaks up」

ノーズギアもしっかり接地し、スラスト・リバーサーで一気に減速していく。

「Reverse normal」

やがて恵真は「Sixty」とコールし、大和がレバーを戻した。

機体は無事に速度を落とし、地上走行に入る。

とその時、タワーの管制官が後続機に指示を出す声が聞こえてきた。

「Go around due to Microburst alart」

(マイクロバースト?!)

恵真は思わず目を丸くする。
だが、自分にもタワーから地上走行の指示があり、気持ちを切り替えて応答する。

その後グランドとコンタクトし、機体は無事にゲートに到着した。
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