Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
「ただいま。そんな驚いた顔してどうしたんだ?」

 宗吾の顔を見ると、やはり何も言えなくなってしまう。この一カ月、愛を忘れて空っぽになっていた六花を癒して満たしてくれたのは宗吾に他ならない。

「急にドアが開いたからびっくりしただけ。今日は夕飯食べてきてるんだよね? 今お風呂沸かすからちょっと待ってね」

 ソファに荷物を置いた宗吾の横をすり抜けるように浴室に飛び込むが、背後から突然抱きしめられた。

「一緒に入る?」

 なんて甘くて魅力的な言葉。これが疑似恋愛なんかじゃなくて、本物の愛だったらどんなに幸せだろう。

「……じ、実は生理が来ちゃった。だからしばらくそういうのはなしね」
「そっか。それは残念」

 頬に押し当てられた唇がくすぐったく、それだけで熱い吐息が漏れてしまう。

「じゃあ生理が終わってからを楽しみにしよう」

 荷物を持って書斎へと向かった宗吾の背中を見送りながら、泣きそうになるのをグッと抑えた。

 彼を幻滅させたくない。優しいあの目で私を見てほしい。もし妊娠のことを伝えて堕ろせと言われたら? そんなことは想像だってしたくない。

 その時になってようやく六花は自分の中の本当の気持ちに気付いたのだ。

 あぁ、そうか。私、きっと本物の愛が欲しいんだ。心から愛し愛される人と出会いたい。だからこの子を守りたいと思うのねーー。

 宗吾の愛は作られたもの。だけど今抱き始めたお腹の子への想いは本物だと思えた。

 だからこそ六花の中に生まれかけている彼への想いが確信に変わる前に、行動に起こす必要がある。

 優しい彼は好きだ。だけどもし産むことを反対されたら辛すぎる。それなら一人でこの子を産んで育てよう。彼への愛も含めて、丸ごとこの子を愛してあげたいのーー六花は大きく頷き決心した。
< 20 / 112 >

この作品をシェア

pagetop