Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
 力が入らない。それどころか体の奥深くが刺激されて、おかしくなりそうだった。

 あぁ、だから言ったじゃない……一度でも堕ちたらもう這い上がれない。すでに六花の体はこの先を求めていた。

 宗吾の唇が離れ、六花は彼の肩に倒れ込む。息が切れ、恥ずかしくて顔をあげられない。もうこれ以上されたら……きっと欲望に勝てなくなってしまう。

「やっと恋人らしいことが出来たな。まだ物足りないけど」
「……そ、宗吾ってば、そんなに欲求不満なの?」

 自分の感情を隠そうと、宗吾の肩に額を押し付けてわざとからかうようなことを口にした。しかし宗吾の舌が六花の耳を舐めたものだから、口からは甘い吐息が漏れ、体は大きく震えてしまう。

「そうだよ。あの日からずっと欲求不満なんだ。だから六花が俺を満たしてよ」

 ドキッとした。それはどの欲求を示してるの? どうして私なの? あなたと付き合い、結婚したいという女性はたくさんいるでしょ?

 しかしそのことを問いかけることが出来ぬまま、黙って呼吸が落ち着くのを待つ。すると宗吾の腕の力が少し弱まった。

「さすが展望テラスだな」

 六花がゆっくりと顔を上げて振り返ると、宗吾の視線の先には赤く染まった空と、沈みかけた夕日が美しく輝いていた。

「本当……キレイ……」

 キスをされ続けていたから周りを見る余裕はなかったが、テラスには夕日を見ようと人が増え始めていた。

 宗吾は六花を抱き上げ立たせると、自身も立ち上がる。

 皆テラスから見える夕日に気を取られているように見える。誰にもキス現場を見られていませんように……六花は恥ずかしくなって、心の底からそう願った。

「さぁそろそろ行こうか」

 宗吾に言われ、六花は俯きがちにそそくさと階下へ向かうエスカレーターに乗る。しかしその時にようやく宗吾の様子がおかしいことに気付いた。

 六花の前に立つ宗吾は、彼女に背を向けたまま振り返ろうとはしない。

「宗吾?」

 声をかけるが、彼が口を開く気配はなかった。

 心配になった六花は、エスカレーターを降りてから宗吾の顔を覗き込むと、驚きのあまり足を止めてしまった。彼の顔は真っ赤に染まり、瞳には涙が溢れかけている。

「ど、どうしたの⁈ 具合でも悪いの?」
「なんでもないから……早く行こう」
「えっ、でもお土産は?」
「……帰りもこのサービスエリアに寄るから。早く宿に行かないと……ほら、夕食の時間もあるし」

 彼の目から滲み出る切実な想いを感じ取り、やっとその意味を理解した。

 そうよ、さっき宗吾の膝の上に乗った時、彼のモノが硬くなっていたじゃないーー! そして二人は建物を出て、慌てて車に乗り込んだ。
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