隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
もう一人の御曹司
思い入れなんてないと言っておきながら、私は自分のために亡き両親が用意した部屋の中を見て回り感傷に浸った。
もうすぐ出産を控えた望愛さんも、私とは別の意味で興味深そうだ。
この部屋の物は私の物であると同時に両親の遺品でもある。
それはおじいさまにとっても大切な品のはずで、簡単には処分なんてできないのだろと思う。

「部屋はなくなってしまうけれど、桃ちゃんはいつでも遊びに来てね」
自分の発案で部屋を取り壊すことになって、望愛さんは責任を感じているのだろう。

「大丈夫ですよ、私は本当に平気ですから。もう四半世紀が経ったんです、いつもでもこのままってわけにはいきません」

亡くなった人には気の毒だけれど、残された者は生きていかなくてはならない。
思い出でお腹は膨れないし、感傷に浸ってばかりでも前には進めない。
それに一条の両親だって、私やお兄ちゃんやおじいさまの幸せを望んでいるはずだもの。

トントン。
「失礼します、奥様」
声をかけてきたのはこの家のメイドさん。

ちょうど部屋を出ようとしていた私と望愛さんはドアの前で足を止めた。

「大旦那様がお呼びです」

今、この家の奥様は望愛さんで、旦那様はお兄ちゃん。おじいさまは大旦那様と呼ばれている。
どうやらおじいさまが呼んでいるってことらしい。
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