隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
忘れられない日
「おはよう、桃さん」
「おはよう、ゆ、田口さん」

昨夜の隼人の言葉が頭をかすめ、ギリギリのところで『田口さん』と言い直した。
言われてみれば職場ではお互いを名字で呼ぶのが普通で、私も名前呼びをするのはごく親しい人達だけ。研修でやってきた新人にいきなり名前呼びっていうのはやはり違和感があったのかもしれない。

「どうしたの、桃さん?」
挙動不審に見えたのか、優也さんが私の顔を覗き込む。

「何でもないけれど・・・呼び方、苗字にしない?」
「え?」
やっぱりポカンとされた。

「だって、ここは職場だし、田口さん、高井さんって呼ぶほうが普通でしょ?」
「誰かに何か言われた?」
「そうじゃなくて・・・」
さすがに隼人の名前を出すわけにもいかず、私は言い淀んでしまった。

「先に名前を呼んだのは僕なのに、桃さんに言うなんておかしいよ。誰に何を言われたの?」
「だから、誰も、何も言っていないから」
「じゃあ」
なぜ急にそんなことを言い出したのかって、優也さんの目が聞いている。

さあ、どう説明すればいいんだろう。
それに、優也さんってお兄ちゃんに負けないくらい押しが強いのね。
自分が納得するまで引かないのは御曹司の特徴かしら。
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