隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
「今日は亡くなった両親の命日なのよ。だから、社長も早く帰ってお墓参りに行くの」

もう25年も経つから親族がそろって何かをするってことは無いが、おにいちゃんとおじいさまはこの日のお墓参りを欠かさない。
そのために、スケジュールを調整して時間を作っているのだ。

「そうだったんだ。ごめん、知らなかった」
「いいのよ。知らなくて当然だわ」

これはお兄ちゃんの個人的なことだもの。
知っている人は多くないはず。

「桃さんも行くの?」
「え、私?」
「だって桃さんも」
「行かないわよ。さすがに法事だって言われれば行くけれど、今日は行かないわ」

亡くなった両親の命日に墓参りにもいかないなんて薄情な娘かもしれないが、私は一条家のお墓参りには行かない。
その代わり、毎年一人で両親に手を合わせることにしている。

「じゃあ、今日って時間がある?」
「え、ええ」
「それじゃあ、今夜は僕と食事に行こうよ」
「いや、それは・・・」

それとこれとは話が違う。
さすがに今日みたいな日は、定時で帰りたいのに。

「実は桃さんに話があるんだ。それに、付き合ってくれれば桃さんの秘密は誰にも言わないから」
「優也さん?」

困ったな。
こんな言い方をされると断れないし、話っていうのも気になる。

「いいよね?」

おとなしそうな顔をして、やっぱり強引だ。
でもまあ、いいか。
こうして約束を入れていれば、望愛さんに「一緒にお墓参りに行きましょう」と誘われても断る口実になる。
この時の私はそう考えていた。
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