隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
普段は降りることのない地下鉄の駅。
私は年に一度ここに来ている。

駅前の小さなフラワーショップでお花を買い向かうのは駅前の交差点。
人と車でごった返した一角に置かれた花束。
私もその横にお花を置いた。

ここは25年前に大きな交通事故のあった場所。
トラックを含む車5台の絡む大事故で、4人の人が亡くなり3人がケガをした。

「お父さん、お母さん、今年もやってきましたよ」

年に一度だけ、私は高井の両親以外の人を「お父さん、お母さん」と呼ぶ。
見たことも会ったことも記憶にもない実の両親。
ここはその両親が命を落とした場所なのだ。

手を合わせて頭を下げていると、周囲にもお花を供え手を合わせている人の姿が見える。
大きな事故だったから、今だに訪れる関係者は多いらしい。

「どうか安らかにお眠りください」
もう一度目を閉じて手を合わせると、自然と涙が込み上げてきた。

「桃」
「え?」

一瞬幻を聞いたのかと思った。
それは、私が今一番聞きたい声だった。
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