隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
私の知らないあなた
「桃」

歩道の真ん中でポロポロと涙を流す私を、隼人が抱きしめてくれる。

「隼人・・・ごめん」

私が困ったときに頼るのは、母さんでもお兄ちゃんでもなく隼人だ。
隼人に包み込まれシトラスコロンの香りをかいでいるだけで、私は安心する。

「お前が優也とデートなんかするから、一人で泣くことになるんだぞ」

そう言えば、去年は隼人と二人でここに来た。
一人で行けるからって言っても後ろからついて来て、帰り道はずっと手を繋いでくれていた。
握りしめられた隼人の手が温かくて、私は救われた。

「大丈夫か?」
「うん」

流れ続ける涙は止まることがなく、私は持っていたハンカチで顔を覆った。
普段の私は決して泣き虫ではない。
どちらかというと強い女子だと思っている。
それでも、年に一度この場所では涙が止まらない。
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