幼なじみ社長は私を姫と呼んで溺愛しています
千紘は別室からリングケースをふたつ持って戻って来た。

そういえばすっかり忘れていた。

指輪の交換というものをまだしていない。

なるほど。だから余計に入籍の実感が湧かなかったのかもしれない。

「姫、手を出して」

言われるがまま左手を出すと、千紘はキラキラ光るマリッジリングを私の薬指に通した。

幸せな気持ちがこみ上げてきて、頬が緩んでしまう。

「千紘、私もやる」

千紘の大きな手を取り、関節部分に引っかかって苦戦しながらもリングを指に通した。

千紘は眩しそうにそれを見つめ、それから私の背に腕を回してぎゅっと力を込めた。

「幸せだよ、姫。
こんな日が本当に来るなんて、夢みたいだ」

千紘はとろんとした目で私に顔を近づけてくる。

その顔があまりにセクシーで胸の奥がぎゅーっと締め付けられ、そのまま目を閉じた。

香水の香りが鼻をかすめ、とろけるような甘いキスがいきなり私の唇を割って舌を絡めとる。

…ん?どう考えても他に彼女いたことあるよね?

だって、こんなに上手なわけ…

ずっと私のこと好きだったみたいな言い方してたよね?

そんな疑問もいつの間にか思考から消え去って、頭も心も千紘でいっぱいになってしまった。

骨抜きにされてしまってもう力が入らない。

懸命に千紘の背中にしがみついたら、千紘は後ろ頭に手を当て、そのままソファへ押し倒した。

どのくらい長い間キスをしていただろう。

夢中になって唇を求め合っていた。

唇が離れて、私に目を落とす千紘の笑顔があまりに幸せそうで、涙が溢れた。

「姫?どうした?大丈夫か?」

おろおろする千紘に笑いながら、

「…千紘、私、幸せ」

と言ったら、今度は千紘が目を潤ませて再び微笑んだ。

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