幼なじみ社長は私を姫と呼んで溺愛しています
―― プルルル プルルル

荷造りも終わった頃、スマホが音を上げた。

画面に表示されたのは『千紘』の文字。

もう0時近いのに、やっと仕事が終わったのかな。

「もしもし」

『もしもし、姫』

心なしか、声はずいぶん疲れているように聞こえる。

「仕事終わったの?」

『いや、もう少しあるんだが、姫の声が聞きたくなって』

千紘はいつもストレートな言い方をしてくれるけど、電話越しだとダイレクトの耳に声が伝わるから、余計に恥ずかしくて反応に困る。

『引っ越しの準備は進んでるか?』

「うん、もう大体OKだよ」

『そうか。楽しみだな、部屋に帰ったら姫がいる生活。
引っ越しの日は早く帰れるように、もう少し頑張って仕事をするよ』

ゴールデンウィーク中、千紘は部屋には帰って来ずに会社の仮眠室を使うのだと言っていた。

そのくらい忙しいということだ。

「…大丈夫なの?あんまり無理しないで」

『姫の声を聞けたから大丈夫。
やっぱり栄養ドリンクより姫だな』

「は?」

『じゃあ、引っ越しの日に』

「うん、頑張ってね」

千紘が帰って来る日は、おいしい料理を作って待っていてあげよう。

母に習わなくちゃ。


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