新くんはファーストキスを奪いたい



 学校で文句を言われないよう、昨日は自宅に着いたと同時に新の要望通り「帰宅した」旨を連絡した鞠。
 その甲斐あって、今日の二人の会話には和やかな雰囲気が漂っていた。



「新くん何かいいことあったの?」
「身長伸びた、三センチ」
「すごいじゃん! いいな〜」
「鞠はそのままでいいよ」
「えーもう少し伸びて欲しいんだけどねー」



 自然な会話もできているし、新に対して少しでも“嫌い”と思ったのが嘘のように楽しい。
 これはクラスメイトとしても、同じ委員会のパートナーとしても良い関係を築けていると感じていた。

 すると二人の目の前を通りかかったのは、測定を終え着替えを済ませたばかりの北斗と唯子だった。



「鞠ちゃんだ! と新もいるし」
「ど、どうも。笹野さん」
「唯子でいいよ〜」



 昨日の印象から全く変わらない、明るく元気な唯子は鞠には笑顔を。そして同じ中学出身の新には渋い顔を向けた。
 同じく新も面倒そうに顔を顰めたが、それはあまり関わりのない北斗へも向けられている。

 しかしそんな視線に気付かない北斗は、唐突にいつもの調子で鞠に自慢してきたのだ。



「聞け鞠、俺また身長伸びた三センチ!」
「え! じゃあついに180?」
「おう!」



 鞠と北斗の親しげな会話だけならまだしも、明らかになった北斗の身長に敵意が倍増した新。

 自分より背の高い北斗の足先から頭のてっぺんまで隅々睨むと、それを見ていた唯子が同じように新を睨む。



「僻むなみっともない」
「唯子に関係ない」
「ある、私の彼氏だから北斗は」



 何気ない唯子の台詞で、鞠の胸にチクリと針が刺さるような痛みが走った。

 北斗へ向けられた鞠の密かな想いも失恋も、唯子は知らなくて当然だから仕方のないことではあるけれど。
 やはり北斗と唯子を前にすると、まだ無傷ではいられない鞠の心。



「私たちこれから着替えだから、新くん行こっか」
「あ、うん」



 新にそう声をかけた鞠は、二人にまたねと平気なふりを見せて背を向けた。
 すると、普段は鈍いのにふと何かを察した北斗が、鞠を呼び止める。


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