香らない恋もある。

1.告白

 屋上は寒いなんてもんじゃなかった。
 冷たい風は頬を刺すように痛い。

 寒さで頬を赤く染めた夏目蓮(なつめれん)が勢いをつけるかのようにいう。

「おれと、付き合ってほしい」

 最初、何をいわれたのかわからなかった。

 蓮はわたしのクラスメイトだ。
 それだけじゃなく、幼稚園から中学からまで一緒だし、家も隣同士の幼なじみ。

 確かに仲はいいけれど、付き合って、というのは、どういう意味で?
 買い物とか?
 映画とか?

 わたしが彼の言葉の真意を汲めないでいると、蓮はこう付け加えた。

「おれ、萌香(もえか)のこと、好きだ」

 そういった直後、蓮の顔はぼんっという音が出そうなほどに真っ赤になる。

 顔が真っ赤になっても、中性的で痩身の彼は絵になるなあと思う。
 そんなことを考えていたら、蓮の言葉がようやくわたしの脳みそに到達した。

 わたしを好き?

 そう思って、鼻をひくひくさせてみる。

 香りがしない。
 蓮からは、恋の香りがしなかった。

「本当にわたしのこと」

 そういいかけたところで蓮が、「本気だから」と真っ直ぐに目を見てくる。
 その吸い込まれるような瞳に、わたしは視線をそらした。

「付き合ってほしいだなんて……。迷惑だよな」

 寂しそうにいう蓮にわたしは思わずこう叫んだ。

「そんなわけないじゃん!」

 カップルが成立した瞬間であった。
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