香らない恋もある。
 蓮は今日は部活があるということで、わたしは一人で下校することにした。
 学校の門を出てすぐに、ふわりと花の香りが漂ってくる。
 ジャスミンとバラを混ぜたような香りだ。
 すると、わたしのすぐそばをカップルが通り過ぎて行った。

 少し離れたところで女子二人が、「彼氏なんかいらないよね」と話しているけれど、右側の女子からはツンとするくらいの花の香り。

 これらはすべて恋の香りだ。

 人は誰しも、心に花のつぼみがある。
 その花は恋をした瞬間に花開き、香りを周囲に漂わせているのだ。
 恋心が消えれば、花は閉じ、また次の恋まで開かないし香らない。

 わたしは昔から、他人の恋の香りがわかる体質だ。

 現実にある花の匂いと恋の匂いはそっくりだけど、恋の匂いのほうが現実離れしている香りだからすぐにわかる。
 ふわふしたような夢のような、何ともいえない良い香り。

 わたしは、この恋の匂いを嗅ぎわけることには自信を持っている。
 今までクラスメイトや知人友人親族の恋をすべて嗅ぎわけ、当ててきたのだ。
 しかも現実の花の香りにもちょっとだけ詳しくなった。

「だけど、今回はハズレてほしい」

 わたしはそう呟いて、オレンジ色に染まる空を見上げた。

 蓮からは恋の香りはして来なかったから。
 だから、彼の告白を冗談かと思ったのだ。

 小さくため息をつくと、白い息が二月の空に溶けていく。
 ふと、さっきの蓮のうれしそうな笑顔が浮かぶ。

 弱気になってはダメだ。
 気になっていた蓮からの告白を素直に喜びたい。
 きっとこれから恋の香りがしてくるんだ。
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