香らない恋もある。
 わたしが教室に戻ると、紫が何やら怒っているようで、ずかずかと大股でこちらに来た。

「なに? どうしたの?」

「いやー。今朝、弟とケンカしてさー」

「あー。それでイライラしてるんだ」

「だってさー、聞いてよ! 昨晩さ、『クラスのさえない女子に罰ゲームで告白したら本気にされて困ってる』って笑いながら話すんだよ!」

「それはひどいなあ」

 私が苦笑いをすると、紫は机をバンバンと叩きながらいう。

「ひどいよ! ひど過ぎるよ! だからわたし、思わず弟にビンタしたんだよ。そしたらケンカになってね」

「それを今朝もまだ引きずってるってことかー」

「そう! 今朝なんかわたしの朝食のハムエッグ勝手に食べるし! あいつちょっとクラスでイケメンだともてはやされてるからっていい気になって!」

 紫は机をバシンと強く叩く。
 それ、わたしの机なんだけどなあ。

 でも、紫の怒りはもっともだと思う。
 罰ゲームで告白をしてからかうだなんて、最低だ。
 そこで私はハッとする。

 まさか、蓮も罰ゲームで私に告白をした、というわけじゃないよね?

 そう思ってから、わたしは首を左右にぶんぶんと振る。

 蓮はそんなことをする奴じゃない!
 そんな最低なことしない!
 小さい頃から一緒にいるわたしは、蓮の性格を一番よく知ってる。

 そう思って蓮を見ると、教室の前のほうで仲の良い男子のグループとはしゃいでいた。
 ああやって無邪気に笑う蓮もかわいいなあ。
< 10 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop