香らない恋もある。
 放課後に蓮とふたりで帰る。
 それは特別なことではなくて、今までも友だち付き合いをしていたから偶然、一緒になって帰ることは何度もあった。

「そういえば、付き合う前も何度も一緒に帰ったことあったよね」

 わたしが何気なくいうと、蓮は両手にはあっと息を吐いてから答える。

「あれはなー。おれの血と涙の汗と鼻水の結晶なんだ」

「なんか汚ない結晶だなあ」

「失礼な」

 蓮はそういってから空を見上げて、遠い昔のことを思い出すような口ぶりで続ける。

「おれは萌香と偶然、帰りが一緒になったことを装うべく、時には校門の隅に隠れ、時には下駄箱に隠れ、そうやって『今帰り? 奇遇だなー』とかうそついてたんだよ」

「そうなの? そこまでして……」

 わたしはそこで言葉を飲み込んだ。

 そこまでしてわたしと帰りたかったの?
 そんなに好かれてるの?

 わたしがそう質問をしたら、蓮は顔を赤らめつつも、『そりゃあそうだろ』とか答えてくれるかもしれない。
 だけど、わたしは蓮から恋の香りが漂わない状態で、彼の言葉を信じることはできないだろう。

 蓮はなんでわたしと付き合ってるんだろう。
 バレンタイン目当てだろうか?
 それなら、別にわたしじゃなくていいと思うんだけどなあ。
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