香らない恋もある。

3.あの日の肉まん

 蓮の提案でコンビニに寄る。
 コンビニの前で、わたしと蓮は肉まんを頬張った。
 道路に落ちた枯れ葉がかさかさと音を立てて、風に飛ばされていく。

「寒いな」

 蓮がぽつりと呟く。

「まあ、二月だしね」

「それより萌香、お前なんで角煮まんなんだよ」

「え? おいしそうだったからに決まってるでしょ」

「冬と言えば肉まんだろ!」

 蓮が自分の食べかけの肉まんを頭上高く掲げる。
 わたしは角煮まんを飲み込んでからいう。

「そんなの好みじゃん」

「いや、肉まん一択だ。おれはピザまんも角煮まんも認めないぞ! あいつらは肉まん界にいてはならない存在!」

「まるでピザまんと角煮まんに親でも殺されたみたいだね」

「ピザまんと角煮まんに、おれの村は焼かれたんだ……!」

 そういってうそ泣きをした蓮が、ぽろりと自分の持っていた肉まんを地面に落とす。

「あああっ! おれの肉まん!」

「あーあ。うそ泣きなんかするからー」

「うわあああ。だからピザまんと角煮まんは嫌いなんだよ。こんなところでもおれに呪いをかけてきやがる!」

「単なる不注意でしょ、もー」

 わたしはちょっと呆れつつも、自分の角煮まんを半分に割る。
 そして片方を蓮に差し出す。

「はい。一口食べちゃったけど」

「え? あ、ありがとう」

 蓮はそういって私から角煮まんを受け取ると、食べようとしてぴたりと動きを止める。

「どしたの?」

 わたしが聞くと、蓮はようやく聞き取れる声でいった。

「これって、間接キス、だよな」

 蓮はそういい終えた途端、耳まで真っ赤になる。

 わたしも胸がドキドキしてきた。

 そこまで正直で純粋なのに、彼から恋の香りはしてこない。
 わたしは複雑な気持ちで角煮まんにかぶりついた。
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