Chocolate Lily
神奈川県のとある花屋で、まだ二十代半ばの若い店主が殺害された。殺害方法はナイフで何度も体を滅多刺しという非常に残忍な方法で、被害者となった牧歩美(まきあゆみ)は恐怖と苦悶に満ちた表情で血の海の中を横たわっていた。

「これは酷いな……」

警察官歴二十年以上、数々の事件と向き合ってきた刑事の太宰順一(ださいじゅんいち)は歩美の遺体を見て呟く。これほど残酷な事件現場に足を踏み入れるのは久々で、現場の中に入るのを一瞬躊躇ってしまうほどだった。

「かなり店内が荒れていますね。相当被害者は抵抗したのでしょう」

顔を顰める順一の鼻に、キツい香水の香りが入ってくる。順一の隣に立っている黒谷美麗(くろたにみれい)のものだ。彼女は順一の部下であり、よくコンビを組んで事件の捜査をしている。

「黒谷、またお前捜査だっていうのにそんな香水つけてきたのか!」

「だって、これがないとやる気出ないんですよね〜」

美麗の体からはいつも甘ったるい香水の香りが漂っている。この香りのおかげで、彼女が部屋にいたのか、どこにいるのか、順一だけでなく多くの捜査員がわかるのだ。
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