全治三ヵ月
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「やだ、何これ」

隣で今朝届いた郵便物を整理していた宮川さんが小さく声を上げた。

基本、物流本部部長宛てに届いた郵便物は全て開封して、内容によって仕分けして回覧、もしくは島崎部長に渡す。

「どうしたんですか?」

一緒に開封作業をしていた私は手を止めて彼女の手元に目をやった。

島崎部長宛てで、送り主は無記名の茶封筒。

宮川さんが手に持っている便箋を覗き込もうとしたら、彼女がハッとした表情で裏返す。

「いや、何でもないです。ごめんなさい」

そう言うと、慌てた様子でその便箋を封筒に戻し入れた。

何だろうと思いつつも、まぁいっか、と再び自分の作業に戻る。


「御崎さん、 ちょっといい?」

昼休みからフロアに戻った私に、島崎部長が手前の会議室を指さしながら声をかけてきた。

「はい」

席には戻らず、そのまま部長の後ろに続き会議室に入る。

応接セットのふかふかの椅子に座ると、正面に私に笑顔を向ける島崎部長。

相変わらず端整な顔立ちとクールなシャツがまるで映画俳優みたいだと少し顔が熱くなる。

「どう?仕事は。困ってることはない?」

週に一度はこうやって、私の仕事の進捗状況や懸念事項がないか尋ねてくれた。

「はい、大丈夫です」

「ご主人も?」

「ええ、ようやくギプスも外れて、松葉杖なしでも立てるようになりました」

「早く外れてよかったね」

「はい」

早く外れたってことは、早く店に戻れるっていうこと。

悠が店に戻るっていうことは、島崎部長の元で働くことも終わりってことだ。

たった二カ月ほどなのに、今や私にとってかけがえのないこの場所から離れるなんて想像したくもないことだった。

それに、何度か悠に言おうとしたけれど、結局ジャパン物流で働かせてもらっていることは言えていない。

悠に対してだけでなく、島崎部長から悠の話をだされる度にひどい罪悪感に苛まれていた。

誰かを騙そうなんて思ってもみなかったのに、結果的にそうなってしまっている私の決断は間違ってたんじゃないかって。
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