非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~【コミカライズ原作】
 道端で言い合ってしまったし、研究室に行った後の話は、うやむやのままになっていた。

 その後、顔を合わせる時間もほとんどなかったのは確かだ。

 一毬はまさか湊斗が、自分の帰りを不安に思いながら待っていてくれたなんて、想像もしなかった。


「そんなこと、ある訳ないじゃないですか」

 一毬はそう言うと、湊斗の落ち着いたウッディ系の香りがするシャツに顔をうずめる。

 湊斗は安心した吐息を漏らすと、そのまま再び一毬を腕の中にぎゅっと閉じ込めた。


 しばらくして湊斗の腕の力が弱まり、一毬は顔を上げる。

 頬をほんのりピンクに染めた湊斗は、一毬を開放するとソファへと腰かけ、ぽんぽんと自分の隣を示す。

 一毬は、もう少し湊斗の熱を感じていたかったと、名残惜しく思いながらも、抱きしめられた感覚に浮足立ちながらソファに座った。


「心配させてごめんなさい。その……急に、食事に誘われて……」

 しばらくして落ち着きを取り戻した一毬は、楠木と食事をしてきたことを、後ろめたく思いながら小さく声を出す。
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